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キタサンブラックは“天賦の才能に恵まれた馬”だけど「甘えてくる可愛い面も…」 騎手と調教師が明かした、歴史的名馬の“素顔”

posted2022/03/16 17:00

 
キタサンブラックは“天賦の才能に恵まれた馬”だけど「甘えてくる可愛い面も…」 騎手と調教師が明かした、歴史的名馬の“素顔”<Number Web> photograph by Photostud

菊花賞を皮切りに、GI7勝を挙げた名馬キタサンブラック

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石田敏徳

石田敏徳Toshinori Ishida

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2017年の有馬記念で有終の美を飾ったキタサンブラック。引退後の現在も、産駒の活躍や『ウマ娘』への登場など、大きな存在感を放っている。当初の期待は大きくなかった“エリートではない”競走馬が日本を代表する名馬に成長するまでの軌跡を振り返る――。雑誌『Number』に掲載された記事を、特別に無料公開します。【初出:2017年03月30日、肩書などすべて当時】

 GIを何勝もする馬、年度代表馬の栄誉に輝くような馬のほとんどは、デビューの前から特別なオーラを放っているものだ。当初の期待はそこまで大きくなくても、素質の開花を妨げていた要因が解消されたのをきっかけに、馬が劇的に強くなるケースもままあること。

 しかし昨年の年度代表馬キタサンブラックが描いてきた出世の軌跡はどちらにもあてはまらない。「この馬は本当、競馬を使いながら少しずつ力をつけてきた感じですね」とは清水久詞調教師。ひとつひとつの階段を踏みしめるように上っていくうちにいつの間にか、“1年の顔”に選ばれるほど強くなっていたというのは、見る側にも共通する実感だろう。

 大きな身体を考慮し、育成調教はゆっくりと進められたキタサンブラックが栗東トレセンに入厩してきたのは2014年の12月17日、同期生たちが2歳の王座を争った朝日杯フューチュリティSの4日前だった。直後から調教に跨ってきた黒岩悠騎手は、当時の印象を次のように振り返る。

「甘えてくれる可愛らしい面もあった」

「いいものは持っていましたが、身体にはかなり余裕がありました。馬のエンジンは後ろ脚がメーンなので、大きな身体を動かすためには立派なエンジン、つまり筋肉が必要になります。その必要な筋肉がまだついていなかった。だから厩務員さんには『来年の夏を越えたらよくなってくると思いますよ』みたいな話をしたんです」

 その辻田義幸厩務員によれば「だいぶアスリートっぽくなった」現在とは違い、当時は「ちょっと甘えてくれるような可愛らしい面もあった」という。

 しかし「夏を過ぎたら」どころか、翌年1月末のデビューからいきなり無傷の3連勝。なかでもデビュー2戦目のスタート後、数百mのうちに感じた衝撃を清水調教師は今でも鮮明に覚えている。

【次ページ】 菊花賞制覇を生んだ“ハードすぎるトレーニング”

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