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「あれ? 駅のポスターにラオウがいない」オリックス杉本裕太郎の活躍は“嬉しい誤算” 30歳の大ブレイクをみんなが喜ぶワケ 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byNaoya Sanuki

posted2021/12/21 11:05

「あれ? 駅のポスターにラオウがいない」オリックス杉本裕太郎の活躍は“嬉しい誤算” 30歳の大ブレイクをみんなが喜ぶワケ<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

ホームラン王に輝くなどリーグ優勝に貢献したオリックス杉本裕太郎。プロ6年目、30歳の大ブレイクだった

 杉本の一軍デビューは、1年目の2016年6月14日の阪神戦。3打数無安打2三振だった。

 翌日、杉本はもうファームにいた。大きな背中を小さくすぼめて神戸サブ球場に現れた。2年目は、昇格後の初打席で本塁打を放ったが、翌日無安打に終わると、その次の日に登録抹消。3年目は昇格後いきなり2試合続けて満塁本塁打を放ったが、それでも安打が出なくなるとすぐ落とされた。そんな調子で4年が過ぎた。

「打ったのに」という不満を胸にしまい、杉本は「なぜ落とされるのか」に向き合った。

「自分は荒削りなバッターで、三振とか粗い打撃が多かった。自分が監督の立場になったとしても、そういう選手は使いづらい。そう考えた時に、やっぱり確実性をどうにかしないと、僕はプロでは通用しないと思ったので、飛ばすことより、どうやったら率が残るのかを考えながら、ここ数年はやっていました」

 確実性を高めるために、二軍のコーチングスタッフのもと、逆方向へ強い打球を打つ意識で打撃練習に取り組んだ。

「今年、本塁打王になれた要因は?」と聞かれるたび、杉本は「ホームランを狙わなくなったこと」「振り過ぎないこと」と答える。

「振り過ぎると僕はコンタクト率が下がっちゃうんで。ずっと確実性が課題だったので、まずはミートすることを心がけて。ホームランばっかり狙うんじゃなく、軽打するとか、そういうことをしていくうちに、いろんなバッティングができるようになった。振らなくなったのがいちばんの要因だと思います」

 中嶋監督には二軍時代から、「そんなに振り過ぎなくても、お前のパワーがあれば、ちゃんと当てさえすれば飛ぶんだから」と言い聞かされてきた。

中嶋監督「外で打たさんからな」

 今年のシーズン中、中嶋監督は杉本の異変を察知すると、「外で打たさんからな」と言った。試合前のフリー打撃を、グラウンドではなく、室内練習場でやれということ。それが「大振りになっているぞ」という合図だった。

 広いグラウンドで打撃練習を行うと、杉本はつい遠くへ飛ばそうと大振りになってしまうからだ。

「それに、外だと打球の飛んだ先を見ようとし過ぎて、顔が先に行ってしまう癖があるんです。でも室内なら狭いから、そうならない」と杉本は言う。

 シーズン終盤になると、監督に言われる前に大振りになっていることに気づき、「室内でお願いします」と自分から申し出るようになった。

 以前は調子の波が激しかった杉本が、今季はそうして大きな不調に陥る前にその都度修正し、本塁打と確実性を両立。32本で本塁打王を獲得し、打率もリーグ3位の.301だった。

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