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《父子制覇》菊花賞の鉄則は「逃げたら勝てない」…セイウンスカイと“伝説の名騎手”の息子が成し遂げた「世代を超えた逃走劇」 

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石田敏徳

石田敏徳Toshinori Ishida

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photograph bySankei Shimbun

posted2021/10/26 06:01

《父子制覇》菊花賞の鉄則は「逃げたら勝てない」…セイウンスカイと“伝説の名騎手”の息子が成し遂げた「世代を超えた逃走劇」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

後続を大きく引き離して京都競馬場のコーナーを回るセイウンスカイ。直線に入った時点で勝負ありという完璧な逃げ切りだった

「いくらなんでも…」横山典弘の大逃げに唖然

 それはともかく、「馬がどんどんよくなっていった」というセイウンスカイは、デビューを迎える頃には別馬のように成長を遂げていた。若手の徳吉孝士とコンビを組んだ新馬戦、ジュニアCを連勝し、保田はクラシックを意識する。続く弥生賞はスペシャルウィークの2着に敗れたが、ソエに悩まされ、思うような調整を積めなかった臨戦過程を考えれば、手応えは掴めた。

 ところが弥生賞の後、徳吉の経験と実績の不足を危ぶんだオーナーから騎手の交代を要請される。保田としてはそのまま続投させたかったが、西山も譲らない。彼の父・正行(西山牧場の創始者)はすでに高齢で病も患っていた。晴れ姿を見せる最後のチャンスかもしれないから打てる手は尽くしたい。自分の父を尊敬すればこそ、父を思う西山の気持ちも痛いほど分かった。

 人選は任され、保田は以前から乗ってもらっていた横山典弘に白羽の矢を立てた。

「僕も駆け出し(開業2年目)でしたからベテランにお願いするより、彼の方がコミュニケーションをとれると思った」というのが理由だが、保田の横山評は興味深い。

「馬の気に乗るというか、傍目には“とんでもない”と映る乗り方が、実はその馬にとってのベストだったりする。彼はそういう技術と感性を持った騎手だと思います」

 新コンビで臨んだ皐月賞は2番手追走から抜け出して快勝。しかしダービーではスペシャルウィークの後塵を拝し、4着に終わる。そして迎えた秋、横山は先の“評価”を体現する逃走劇を演じるのだ。

 手始めは京都大賞典だった。本番とのレース間隔を考慮し、敢えて古馬の一線級にぶつけた始動戦で、横山は馬の行く気に逆らわず、大逃げを打った。どんどん飛ばしていく人馬を後続は追わず、向正面では20馬身近いリードが開く。傍目には、まさに“とんでもない”と映るレース運びである。

 保田は気が気ではなかった。いくらなんでも飛ばしすぎだろうと思い、後続が迫ってきた3コーナーでは半ば観念した。ところが中盤にペースを落とし、息が入っていたセイウンスカイはそこから再び加速。春の天皇賞馬メジロブライトの追撃を振り切って勝利のゴールを駆け抜けた。

【次ページ】 セイウンスカイは「人生の宝物のような馬」

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