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引退に揺れるアテネ金メダリスト…「二度と話しかけるな」「結構です!」ガトリンと“殴り合い寸前の大喧嘩”をした話 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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posted2021/09/29 11:05

引退に揺れるアテネ金メダリスト…「二度と話しかけるな」「結構です!」ガトリンと“殴り合い寸前の大喧嘩”をした話<Number Web> photograph by Getty Images

東京五輪で史上最年長金メダルを目指していた39歳のガトリン。6月の全米選手権決勝で敗れ、4度目の五輪出場は叶わず、現在は自身の進退に揺れている

 喧嘩の理由は、ドーピング問題だった。

 ガトリンは2001年、大学2年の時にADHDの治療で使っていた興奮剤の申告漏れで最初の処分を受けている。競技復帰後に2004年アテネ五輪100m金、2005年ヘルシンキ世界陸上では100mと200mで2冠を達成。しかし翌2006年に再びドーピング使用で処分を受けた。2度目ということで永久資格停止のはずだったが、ドーピング関連の捜査に協力し、司法取引を行なったため8年に軽減。さらにCAS(スポーツ仲裁裁判所)に上訴し、8年から4年に軽減された。

 騒動後、彼に再会したのは2011年3月。取材に出向いたチームで彼は練習をしていた。再び競技に戻っていることに少なからず驚きを覚え、そしてため息が出た。

 ガトリンやマリオン・ジョーンズなどの一連のドーピング問題で、陸上のイメージは低下し、米国陸連はスポンサーを失った。米国陸連の責任者が「陸上競技のイメージを台無しにした。ガトリンはきちんと処分を受けるべき。早期復帰は全力で阻止したい」と話していたように、多くの人たちのストレスの種となっていたからだ。

 ガトリンが再び競技に復帰する――。それは米国の陸上に大きな影と疑念をもたらすことにもなりかねない。本人は一体どう思っているのだろうか? そんな疑問が頭に浮かんだ。

「フェアではないのでは?」すると、ガトリンは激怒した

 練習する選手たちは皆、ほとんどが顔見知りで、笑顔で挨拶したりハグをしている。それをガトリンは1人、つまらなそうな表情で見つめていた。自身が不在の数年での間に変わってしまった陸上界の流れを感じていたのだろうか。

 そんな中で彼に取材を申し込むと、うれしそうな表情で応じてくれた。最初は穏やかに練習状況などを質問していたが、タイミングをみて本題に踏み込んだ。 

「2回目のドーピングで永久資格停止の可能性があったのに、交渉して処分を減らしてもらうのは卑怯では」

「2回ドーピングの後に復帰するのはフェアではないのでは」

 予想外の質問だったのだろう。辛辣な言葉をぶつけると、ガトリンは顔を真っ赤にして怒り出した。

【次ページ】 「適正な処分だったのか?」世界中からの執拗な追及

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