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「ここでユニフォームを脱ぎなさい」から始まった近江高校…“どん底”だったチームが大阪桐蔭を破り、20年ぶりのベスト4になれたワケ

posted2021/08/29 17:02

 
「ここでユニフォームを脱ぎなさい」から始まった近江高校…“どん底”だったチームが大阪桐蔭を破り、20年ぶりのベスト4になれたワケ<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

8月28日の甲子園準決勝、智弁和歌山ー近江にて、打席に立つ近江高のキャプテン春山陽生

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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Hideki Sugiyama

 近江の継投は「勝利の方程式」と呼ばれるが、当人たちからすれば解釈は少し違う。

「必勝リレー」

 これが正解だ。数式のような難解な戦術でなく、名称の通り、彼らが投げれば必ず勝つ。至極シンプルなパターンなのである。

 2年生の背番号「8」山田陽翔が先発し、終盤からエースナンバーの岩佐直哉がマウンドに上がり、ゲームを締める。滋賀大会直前にこの「必勝リレー」で戦うと決めた際、監督の多賀章仁は岩佐に告げた。

「このチームが負けるときは、お前が打たれたときや!」

 20年ぶりの決勝進出を懸けた、智弁和歌山との準決勝。先発の山田が7回途中4失点でマウンドを降りた。

 本来ならば、ここで岩佐とスイッチするはずが、山田からバトンを受け取ったのは、2年生の副島良太だった。近江は9回にも継投したが、3番手に任命されたのは同じく2年生の外義来都だった。

 岩佐の登板は最後までなかった。

 スコアは1-5。エースが打たれて――ではなく、投げずに近江は敗れた。

 試合後、そのことを聞かれると、指揮官は眉間にしわを寄せながら内情を明かした。

「一昨日(8月26日)の神戸国際(大付)さんの7回、8回あたりから、ひじの状態があまりよくなかった。いっぱい、いっぱいでした」

 岩佐は右ひじに炎症を起こしていたという。難攻不落だった「必勝リレー」の解体は、近江にとって夏の終焉の前兆だったのだろう。絶対的な戦力を欠いて敗れたことで、不完全燃焼だったのかもしれない。しかし多賀は、そんな言い訳めいたことは口にせず、それどころか声を張り、チームの歩みを称賛した。

「1戦ごとにチームが一丸となって戦ってくれました。キャプテンの春山(陽生)を中心にどん底から這い上がってきまして、その底力があったからこそ甲子園で4回も勝てたんだと思います。選手には感謝しかありません」

3年生を突き放した監督の檄「お前たちでは夏は勝てない」

 新チーム最初の大会となった昨秋は県大会で準優勝も、近畿大会では初戦で神戸国際大付に逆転負けを喫した。多賀としてはチームの脆さを痛感していたものの、シーズンオフの成長に期待していた。

 どん底。そこまで沈んだのは春の県大会だった。

 立命館守山との3回戦。7回まで2-0とリードしながら、8回に3点を奪われての逆転負け。秋から一向に変貌を遂げる気配のないチームに、多賀は3年生を厳しく突き放す。

「お前たちでは夏は勝てない。ここでユニフォームを脱ぎなさい」

【次ページ】 チームの合言葉は「春山を日本一のキャプテンにしよう」

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