ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER

浅野拓磨のボーフム移籍で甦る13年前の記憶…坊主頭の日本人が観衆を魅了した1本のダイレクトパス

posted2021/07/21 17:04

 
浅野拓磨のボーフム移籍で甦る13年前の記憶…坊主頭の日本人が観衆を魅了した1本のダイレクトパス<Number Web> photograph by Getty Images

2008年から約2年間、ボーフムでプレーした小野。怪我で出番は限られたが、ピッチに立てば華麗なプレーでファンを魅了した

text by

島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

PROFILE

photograph by

Getty Images

 昨季の2部リーグで優勝し、今季ドイツ最高峰のリーグであるブンデスリーガへ参戦するVfLボーフムに浅野拓磨が移籍すると聞いたとき、僕の中で懐かしい感情が湧き立ちました。

日本からの観光客がほとんどいないマイナーな街

 2008年9月、ドイツへ取材に訪れていた僕は、ノルトライン=ベストファーレン州の工業都市ボーフムに降り立っていました。ボーフムは人口約36万人の小都市で、日本から観光に訪れる方はめったにいないマイナーな街です。

 ボーフム中央駅を出ると、向こう正面にショッピングストリートが延びているのが見えました。金曜日で、かなりの人混み。どうやらイベントが催されるみたいで、街路樹にはその内容を知らせる看板が立ち、道の真ん中にはずらりと屋台が並んでいました。

 また道筋には何組もの音楽隊が立っていて、各々が演奏や合唱をしています。その様子を横目に見ながら歩いて行くと広場へ出て、そこに大きなステージが設営されていました。そう、この日のボーフムは街中で音楽祭が開催されていたのです。

 日本での僕は『ストリートフェスティバル』というものにあまり縁がありませんでした。でもドイツに居を構えると、コロナ禍以前は様々な街で『ストリートフェスティバル』に出くわし、その都度楽しませてもらってきました。

 仙台には『定禅寺ストリートジャズフェスティバル』という街ぐるみの音楽祭があるそうですが、僕が遭遇したボーフムの『ストリートフェスティバル』は、まさにその類いだったようで、街全体が華やぐ雰囲気に心が躍りました。本来の目的を忘れて……。

 屋台数件をハシゴしてビールやワインを嗜み、優しく穏やかな音楽の調べに耳を傾けて夢見心地になっていると、ある用事を思い出しました。

「そうだ、ここには、“ある”サッカーチームの練習と試合を観に来たんだった!」

“ある”チームとは、この地を本拠地とするVfLボーフムのことです。

収容2万9448人の小ぢんまりとしたスタジアム

 それは、2008年1月に浦和レッズから移籍加入した小野伸二が所属していたチームでもあります。僕は主にJリーグの浦和レッズの取材活動に勤しんでいたので、同じく2008年1月にドイツへ渡った長谷部誠(浦和からヴォルフスブルクへ移籍)と小野の近況を知りたくて、ドイツ国内を周遊していたのでした。

 練習取材は翌日、試合は翌々日に予定されていました。結局その日の僕は誘惑に負けて夜遅くまで至福のときを過ごしてしまったのですが、それ以来、ボーフムという街は僕にとって特別で、愛着のある場所になったのです。

【次ページ】 自身の苦闘はさておき、浦和時代の後輩を気にかける

1 2 3 NEXT
小野伸二
浅野拓磨
長谷部誠
ボーフム

海外サッカーの前後の記事

ページトップ