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“元アイドル対決”で「全部さらけ出す」 中野たむが“白いベルト”をかけた上谷沙弥戦で“ビンタ合戦”に込めた思い 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byEssei Hara

posted2021/07/13 17:01

“元アイドル対決”で「全部さらけ出す」 中野たむが“白いベルト”をかけた上谷沙弥戦で“ビンタ合戦”に込めた思い<Number Web> photograph by Essei Hara

7.4横浜大会にて、上谷沙弥に渾身のエルボーを放つ中野たむ

白川vs.ウナギの“同門対決”

 この7.4横浜大会では、もう1試合“感情の激突”があった。白川未奈とウナギ・サヤカによる、フューチャー・オブ・スターダムの新チャンピオンを決めるトーナメントの決勝戦だ。

 白川とウナギはたむが率いるユニット「コズミック・エンジェルズ」のメンバー。3人で6人タッグ王座アーティスト・オブ・スターダムを保持してもいる。つまりフューチャー王座戦は“同門対決”だ。

 対戦が決まると、たむ曰く「ちゃんみな(白川)が大丈夫かなっていうくらい病んじゃった」。それは「初めて自分の汚い感情に向き合ったからだと思います」。

 白川は2018年8月デビュー、ウナギは翌2019年の1月4日デビューだ。スターダム以前はともに東京女子プロレスのリングで闘っていたが、白川の視界にウナギが入ってくることはほぼなかった。

 白川にはベストボディ・ジャパンプロレスというもう一つの主戦場があり、そこでは女子の中心選手だった。団体の初代女子王者にもなっている。デビュー直後にメキシコに遠征するなど、自分を高める努力を惜しまなかった。逆にウナギは“若手の1人”といった存在で、東京女子プロレスではタイトルに絡むこともなかった。

 実際のキャリア以上に、両者には差があるように見えた。だがウナギは急成長を見せる。東京女子プロレス時代、負傷欠場がきっかけで肉体改造に取り組み、10kgの減量に成功。昨年、復帰の時期がコロナ禍と重なったが「レスラー全員が試合できない」状況を自分のプラスにしようと考えた。「たくさん試合がしたい」と大会数の多いスターダムに戦場を移したことも、彼女なりの向上心の表れだった。

「私がケガで欠場している間に、ウナギのシングル7番勝負が始まって。セコンドについて、頑張ってと思ってたけど......どんどん進んでいくウナギを見て悔しい、苦しいと思ってました」(白川)

「みなちゃんは前の団体も含めて一番一緒にいるんですけど、プライドが高くて人に弱みを見せない。人に興味がないのかなって。そんなみなちゃんが、見せたくない部分を見せてしまっている。その相手が私。これってプロレスラーとして一番おいしいと思います。試合でも、汚い白川未奈をすべて出してきてほしい」(ウナギ)

 たむとユニットを組んでいるだけあって、というところだろう。白川もウナギも感情をぶつけ合うことに躊躇がなかった。ウナギに対してだから、白川はすべてをさらけ出すことができた。

フィニッシュは初期からの得意技・インプラントDDT

「(白川には)ウナギがどんどん上がってきてることへの焦りがあると思います。『もう超えられてるんじゃないか』という苛立ちとか。いろんな気持ちと闘ってると思うんですよ。そこに負けちゃわないかが心配ですね」

 試合を前に、たむはそう分析していた。だが勝ったのは白川だ。たむが危惧した、自分のネガティブな感情との闘いに勝ったことになる。

 フィニッシュはインプラントDDT。最上級の必殺技は他にもあるが、あえてキャリア初期からの得意技を使った。フューチャー・オブ・スターダムはキャリア3年までの選手が対象となる“新人王座”だから、原点回帰の意味があった。

「でもそれだけではウナギには勝てない。だからインプラントDDTの前に、セカンドロープに固定してのDDTも出しました」と白川。最近のウナギの活躍には悔しさを感じたが、悔しいという感情に向き合い、それを言葉にできたのがよかったと振り返った。

【次ページ】 「コズエンはみんなどんくさいんですよ。でも……」

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