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大関・朝乃山と番記者が一緒に“深夜外出した”問題…他紙デスクに聞く「番記者の関係は近すぎたのか?」 

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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posted2021/07/10 17:02

大関・朝乃山と番記者が一緒に“深夜外出した”問題…他紙デスクに聞く「番記者の関係は近すぎたのか?」<Number Web> photograph by KYODO

昨年3月に大関に昇進した朝乃山。今年の5月場所の最中に、相撲協会のガイドライン違反が発覚した

佐々木 近くなりやすい部分はあると言えますかね。特に今はサッカー選手でも、オリンピックを狙うアスリートなども、マネジメント事務所に所属していたりするじゃないですか。そうすると取材の窓口があって、スケジュールもきっちりしていて、選手が守られてしまっている。携帯電話の番号ひとつ聞くのでも、よっぽどチャンスを窺わないと難しい。でも、お相撲さんの場合は、マネージャーがいるわけでもないし、それこそ朝稽古取材のあとに雑談しながら、「今度一杯行こうよ~」なんて言えてしまうんです。

能町 それはいいことだと思うんですよね。そうやって記者さんが引き出した面白い情報を、ファンは知ることができるんですから。

佐々木 記者たちといい関係を築いていれば、それこそ、うっかり口を滑らせてしまって、「あ、今のなし! ごめん!」なんてこともあるし、こちらとしても言われなくとも、「これはわざわざ書かないでもいいかな」と、近い関係だからこその呼吸もあるんですよね。だけど、今後、報道陣との関係がそうではなくなるとしたら、一言一句を拾われて、結構……まずいかもしれないですね(笑)。

能町 私は、大相撲がスポーツかと聞かれたら「スポーツではない」と言いたいくらいなんです。サッカーがいつまでも自分に馴染んでこないのは、なんだか選手とファンの間にひとつ壁を置いているような気がしてしまうからかも。私はお相撲さんの、誰でも受け入れてしまう鷹揚さと、存在そのものの異物感が共存しているところが好きなんですよね。お相撲さんって、誰かに守られている感じはしない――って、本人が一番強いので(笑)。だから、記者さんたちもエージェントを通じて取材するのではなく、相撲界だけは今までのように踏み入った関係のほうが理想的なんです。一線を越えそうな時に、記者さんから注意してとどめてあげるくらいの関係でいい(笑)。

佐々木 あははは。

能町 この佐々木さんが1年以上も相撲関係者と会っていないなんて、異常なことだと思うんです。本来は毎日のように朝稽古を取材して、支度部屋で記者さんとお相撲さんで、いろいろな雑談をしているはず。それこそ「歴代の大関は」なんて話をしていたら、もしかすると、それで朝乃山も大関としての自覚を高めていたかもしれない。結局、コロナが相当いろんなものをねじ曲げてしまっているなと思うんです。これを言ってもどうしようもないんですけど……。巡業すら行われないし、協会のコロナ対策が厳しくて若い男の子たちが部屋からも出られなくて、そのストレスはすごいものだと思います。いろいろなことが気の毒でしょうがないですよ。朝乃山の6場所出場停止がひどいっていうのは、そこに同情する気持ちも入っちゃうんですけど。

佐藤 朝乃山が「大関の自覚がない」と指摘され、協会の看板であるからこそ厳しい処分にもなったんですが。可哀想だと思うのは、コロナ禍のなかで大関に昇進し、昇進パーティもなく、巡業などでは移動手段も別格扱いされるのが大関ですけれど、その巡業もない。各地で「うわ~! 大関だ!」などと声を掛けられることもなくて、1年前の昇進以来、大関扱いされる機会がないままだったとも言える。対外的には、部屋に籠もって稽古して本場所との往復だけの1年間でした。だから自覚が芽生える機会もなかったのかな、と。

佐々木 それもあるかなぁ。

(【続きを読む】《大関朝乃山の番付問題》“三段目転落”の賛否「元大関と三段目力士の対戦は残酷な見世物にならないか?」 へ)

能町みね子(のうまちみねこ)

漫画家・コラムニスト。『週刊文春』にてコラム「言葉尻とらえ隊」連載中。好角家としてNHK『ニュースシブ5時』にて「能町みね子のシブ5時相撲部」のコーナーを担当。近著に『結婚の奴』(平凡社)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)など著書多数。

 

佐々木一郎(ささきいちろう)

1972年千葉県生まれ。96年、日刊スポーツ新聞社入社。オリンピック、サッカーなどの取材を担当し、2010年3月場所から大相撲担当。現在はスポーツ部デスク。ツイッターでは「イチローデスク」と呼ばれ、大相撲ファン4万7000人ものフォロワーを持つ。著書に『稽古場物語』(BBM社)。

 

佐藤祥子(さとうしょうこ)

1967年千葉県生まれ。週刊誌記者を経て大相撲を中心とするフリーライターに。月刊『文藝春秋』にて「大相撲新風録」連載中。『Number』にて相撲コラムを担当。著書に『相撲部屋ちゃんこ百景』(河出書房新社)、『知られざる大鵬』(集英社)など。

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