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「今の自分には価値がない」瀬戸大也が初めて語った、スキャンダルへの悔いと妻の言葉 

text by

田坂友暁

田坂友暁Tomoaki Tasaka

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photograph byKosuke Mae

posted2021/05/26 11:03

「今の自分には価値がない」瀬戸大也が初めて語った、スキャンダルへの悔いと妻の言葉<Number Web> photograph by Kosuke Mae

自身にどんな変化があったのか、瀬戸大也が騒動後初めて語った

「今思えば、人間としての自覚は本当に低レベルで」

 この自信は、練習強度と完遂度、そして日本選手権の結果が一致していることに起因する。感覚とタイムが完全に一致している状態。つまり、すべてが自分のコントロール下にあることが、大会を通じて証明できたのだ。こういうトレーニングをすればこうなる、という過程と結果が瀬戸のなかで結びついており、それが確固たる自信につながったのである。

「練習と結果を見比べてみて、まだまだ全然上がりそうだな、という手応えもありました。それに、チーム・ダイヤで毎週のようにミーティングをして、強化方針を話し合って決めている。全員が全力で取り組むチームがあるから、日本選手権前も、今も不安はなく過ごせているんだと思います」

 '19年7月、世界選手権で200mと400mの個人メドレーで2冠を果たし、五輪代表内定を決めた瀬戸は乗りに乗っていた。

「あのころは自分のことに集中していて、とにかく強く、速く、必ず結果を出すという思いでした。そして結果を出せばよいだろうと、私生活では羽目を外していた時期があった。アスリートとしての自信はめちゃくちゃあったけれど、今思えば、一人の人間としての自信や自覚は本当に低レベルで、成長していなかったと思います」

「きれいごとを言うことにも疲れた」

 すべては、自分のために。シンプルに、自分のためだけに頑張ればよいと考えていたからこそ、このころの瀬戸は苦しい練習にも耐えられた。迷いが一切ないのだから、単純に当時の瀬戸は速かった。速くて結果も出るから、不安もなく、自信にも満ちあふれていた。自分が最高の練習をして、最高のパフォーマンスをすれば、幼いころからの夢だった五輪の舞台の頂点に立てる。そうすれば、周りの人たちも喜んでくれる……。そういう思いでいた自分を、「無双状態だった」と表現する。

 そんな瀬戸をどん底に突き落としたのが、東京五輪の1年延期だった。

「本当に自分は金を獲るためにやっていて、世界ランキングも当時はトップで。何なら3つ金を獲ってやる、っていうくらいの勢いでいるなかで、延期が決まって。そう簡単に1年頑張りますとも言えなかった。それまでどこか、みんなに応援されるようなきれいごとを言い続けていた部分もあって、もうそういう言葉を使うことにも疲れた、という思いもあって。ばつん、と切れたような状態で、なかなか気持ちは切り替えられませんでした」

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