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シャラポワが34歳に “引退会見もしなかった”ロシアの妖精はなぜ「孤独な強さ」を追求したのか? 

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山口奈緒美

山口奈緒美Naomi Yamaguchi

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photograph byGetty Images

posted2021/04/19 11:01

シャラポワが34歳に “引退会見もしなかった”ロシアの妖精はなぜ「孤独な強さ」を追求したのか?<Number Web> photograph by Getty Images

本日4月19日にシャラポワの34回目の誕生日だ

ともに女子テニス界を担ったセリーナとは…

 凛とした美しさとたくましさで長年女子テニスの代名詞だったシャラポワは、数々の名シーン、数々の名言を残したはずだが、なぜか今もふと思い出される言葉は、テニスを語ったものではない。最後となる試合の約半年前、ウィンブルドンで世界ランク88位のポーリン・パルメンティエとの1回戦を6-4、6-7(4)、0-5で途中棄権したあとに語った言葉だ。 

「子供の頃からずっと家庭を持つことを夢見てきた。両親、特にお母さんと私はとても仲がよかったから、将来はそういう関係を自分の子供と築きたい。子供を生んでからテニスに復帰することは考えられないわ。そういう自分を想像したことは一度もなかった。だから、この夢はもうしばらくおあずけかしら」

 テニスは今も最大の生きがいか、それとも他に何か夢見ていることがあるか――そんな質問に対する答えだった。キャリアを通してグランドスラムでは初めての途中棄権という痛みの中で、表情を崩さず淡々と、しかしいつものように相手の目をしっかりと見てそう語った。

 ママさんプレーヤーとしての現役続行を拒む発言は、その前年、出産後に復帰して1年の間にグランドスラムの決勝に2度進んだセリーナ・ウィリアムズを意識したものだっただろうか。この頃はまだ希望を捨てていなかった完全復活だったが、それから2カ月後、シャラポワは全米オープンでセリーナに1-6、1-6で惨敗し、実はそれが引退を考える引き金になったという。セリーナには、初優勝したウィンブルドンの決勝を含めた初期の対戦の中で2勝したが、そこから19連敗。長年、女子テニスの両翼を担ってきた2人としてはあまりに一方的な対戦成績だった。

 セリーナを筆頭に30代で活躍する選手は少なくないが、32歳での引退は10代半ばのシャラポワが描いていた未来予想図に照らし合わせれば、遅すぎるくらいだったかもしれない。14歳で初来日したとき、父親のユーリさんはこう言っていたものだ。

「女子選手の寿命はせいぜい20歳過ぎまで」

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マリア・シャラポワ
セリーナ・ウィリアムズ

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