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居場所がないマッチョを救いたい…シドニー五輪銀メダリスト永田克彦(47)が「限界まで筋肉」を目指すジムを開いたワケ 

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高木圭介

高木圭介Keisuke Takagi

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photograph by Ichisei Hiramatsu

posted2021/04/09 11:00

居場所がないマッチョを救いたい…シドニー五輪銀メダリスト永田克彦(47)が「限界まで筋肉」を目指すジムを開いたワケ<Number Web> photograph by  Ichisei Hiramatsu

4月にオープンする『MUSCLE-WIN』でトレーニングを披露した永田克彦。47歳となった今もその肉体に衰えは感じさせない

 レスリング界の超エリート集団である日体大レスリング部では、高校時代に全国王者など当たり前。全国大会に出場経験すらないまま入部してくる選手は、かなりのレアケースだ。兄・裕志は高校時代、すでに全国大会の常連選手だった。日体大2年時にインカレ(全日本学生選手権=グレコ82kg級)を制し、卒業後の92年には全日本選手権を制し、世界選手権代表にも選ばれる重量級のエリートだった。

 そんな兄を持つという縁もあり、異例の入部が許された永田だったが、そこは実力の世界。待っていたのは挫折と茨の道だった。

「まずは練習についていけるだけの体力が必要」と実感した永田は、厳しいレスリング部の練習後にも学内のジムに入りびたり、フリーウエイト・トレーニングに励むことで体力を補強。筋肉を休める時間には、校内の図書館にて筋肉や栄養学に関する専門書を読み漁るという、一風変わった学生生活を続けた。まだ格闘技の世界に「ウエイト・トレーニング不要論」も根強かった時代のことである。

 着実に「筋肉の鎧」を身に纏った永田は、大学3年にして選手層の厚いグレコ68kg級にてインカレ制覇。国内トップの一角に名を連ね、日体大卒業後は警視庁に籍を置き、97~2002年と全日本選手権6連覇を達成。2000年にはアジア選手権を制し、シドニー五輪で銀メダルを獲得している。レスリング選手として永田が大成功を収めたのも「筋肉のおかげ」とも言える。

現役時代に実感してきたフリーウエイトの効果

 そんな永田が、フリーウエイト・トレーニングを推奨するのは、一にも二にも選手生活における体験に裏付けされてのもの。またキューバや韓国、米国など世界各国に遠征し、現地のレスリング選手たちのトレーニングを間近で目撃してきた経験も大きかった。

 とくに1990年代後半から、アジア圏では珍しく、グレコの世界で世界トップレベルを誇った韓国チームの、ウエイト・トレーニングを徹底的にやり込み、欧米各国に対抗する練習法には刺激を受けた。パワーが重視されるグレコの世界において、「中量級以上では、アジア人種は永遠に欧米人に勝てない」と言われ続けた歴史に見事、風穴を開けたのは韓国チームだった。

「フリーウエイト・トレに関しては、いろんな人から『年齢がいってからの練習は危ない』とか言われるんですが、キチンとしたフォームを憶えて、じっくり取り組んでいけば、最も効率の良い練習なんです。

 要はフリーウエイトをしっかりと扱えるレベルまでの動きを覚えれば、確実に高いレベルで飛躍できます。人間は適切な負荷を与えていけば絶対に成長します。もちろん若いほうが成長のスピードは早いんですけど、年齢がいってからも筋肉は成長します。昔からスポーツに取り組んでいる人は、さらに競技寿命を延ばせますし、経験がない方にも身体を改造、チューンナップする楽しみを知って欲しいですね」(永田)

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永田克彦

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