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「命懸け」「アリ地獄」でも藤井聡太二冠は“39勝1敗”… 中村太地七段が語る将棋「順位戦」の恐ろしさと重み 

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中村太地

中村太地Taichi Nakamura

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posted2021/03/15 17:15

「命懸け」「アリ地獄」でも藤井聡太二冠は“39勝1敗”… 中村太地七段が語る将棋「順位戦」の恐ろしさと重み<Number Web> photograph by Kyodo News

藤井聡太二冠は2019年、順位戦デビュー後18戦全勝という記録を樹立している

藤井二冠の通算「39勝1敗」はちょっと考えられない数字

 先ほど調子の良し悪しと言いましたが、本調子ではない時期もやっぱり出てくるもの。やはり将棋も、苦しい内容でも勝ちを拾う泥臭さが必要になってくると思います。

 そういった葛藤を各棋士が感じているからこそ、藤井二冠が残している「39勝1敗」という通算成績はちょっと考えられない数字でもあるのですが。

クラスが下がっても楽にならない「アリ地獄」

 順位戦は出だしに白星と黒星、どちらが先行するのかが非常に大きなウェイトを占めます。私の在籍するB2の場合は降級点を2回とると、下のリーグに下がってしまいますからね。そして、下のリーグにいけば対戦相手が弱くなるかといえば――そうではない(苦笑)。その競争の熾烈さは、順位戦を戦う重圧の1つなのです。

 奨励会からプロ入りした若手は、まずC2クラスに在籍します。それは私も、藤井二冠も、羽生(善治九段)先生も、どの棋士も同じです。それもあって、今後有望であろうイキのいい若手が待ち構えています。例えば、私がプロ入りした直後のC2クラスには同時期に四段昇格した糸谷哲郎八段、その後は佐藤天彦九段、豊島竜王・叡王が入ってきたと説明すれば、そのレベルの凄まじさを分かっていただけるでしょうか。

 クラスが落ちても全然楽にならず、落ちれば落ちるほど、むしろ食われてしまいかねない――それは「アリ地獄」のような恐怖感があります。

 もちろん勝ち星を積み上げていくことも、とても難しい。順位戦終盤になれば昇級のプレッシャーを感じますし、対局相手もすごく研究してくる。そんな「マークされる」環境を乗り越えてこそ、本当に強い棋士と言えるのでしょう。プロ野球でいうと……将棋がお好きだという丸佳浩選手(巨人)が毎年のように好成績を残しますが、そういった方々からは超一流の棋士と似た心身の強さを感じますね。

森内先生のフリークラス宣言には驚きました

 ここ近年の順位戦をめぐるニュースで驚いたことと言えば、やはり森内俊之九段のフリークラス宣言でしょうか(※2016年度の第75期順位戦、A級からの降級を受けて宣言。46歳の若さでは異例のことで、A級からの直後のフリークラス宣言は中村七段の師匠・米長邦雄永世棋聖に次ぐ2人目となった)。

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