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貧民街育ちの女性柔道家を金メダリストに… ブラジルで指導、藤井裕子監督に感じる“夫婦の新たな形”とは 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byAFP/AFLO

posted2021/02/24 17:12

貧民街育ちの女性柔道家を金メダリストに… ブラジルで指導、藤井裕子監督に感じる“夫婦の新たな形”とは<Number Web> photograph by AFP/AFLO

ラファエラ・シルバと藤井裕子監督。厚い信頼関係で結ばれている

女性が男子代表の監督を務めることについて

――世界の主要スポーツの強豪国で、女子代表ですら指導者は男性であることが少なくない。ましてや、女性が男子代表の監督を務めるのは極めて稀なのでは?

「そうだと思います。たとえば、日本の柔道界では、代表レベルはもちろん、大学、高校でも女性が男子選手を指導することはまずない。チーム関係者はほとんど男性で、女性がいるとしたら栄養士くらい。

 ブラジルには柔軟な考え方ができる人が多いと思います」

――男子選手を指導することの違和感は?

「英国では女子を指導していたが、ブラジルへ来てからは女子だけでなく男子も指導してきた。最初は少し戸惑いましたが、やがて慣れました。以後、選手の性別は全く気にしていません」

パイオニアかは、私が結果を出してから

――とはいえ、男子代表の監督という職務は大きな責任を伴います。

「五輪委員会の会長からも、『監督という仕事は、茨の道だ。結果を出せなければ、厳しい批判が待っている。その覚悟をしておいてくれ』と言われました。

 でも、私の強みはブラジルの男子選手を若手からトップまで全員知っていること。引き受けない理由はどこにもなかった。

 欧州のメディアから『あなたはパイオニアですね』と言われましたが、『そうかどうかは、私が結果を出してからですね』と答えました」

――当時、複数の男子選手が、「ユーコはしっかり技術を教えてくれる」、「気心が知れており、指導法もわかっている」と監督就任を歓迎していました。身長161cmの裕子さんとは大人と子供くらい体格が違う重量級の選手が、「ユーコは小さいが、技術が素晴らしい。自分でも簡単に投げられてしまう」と笑っていた。監督就任後、初めて選手に会ったとき、どんなことを言ったのですか?

「もっと練習をするべきだと思っていたので、『自分にリミットを作るな。練習の質を求める、といった言い訳をせず、もっともっと練習をしよう』と伝えました」

――鬼監督ですね(笑)。その言葉に選手たちは納得して付いてきたのでしょうか?

「信頼関係ができていれば、選手はどんなに厳しい練習でも付いてきてくれます。ただし、中には脱落した選手もいますが……」

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