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素朴な疑問 競馬にはなぜ「逃げ馬」がいるのか? サイレンススズカの“逃げ”に武豊が描いた大きな夢 

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片山良三

片山良三Ryozo Katayama

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photograph byBungeishunju

posted2020/12/27 06:02

素朴な疑問 競馬にはなぜ「逃げ馬」がいるのか? サイレンススズカの“逃げ”に武豊が描いた大きな夢<Number Web> photograph by Bungeishunju

98年毎日王冠での武豊とサイレンススズカ。あまりに鮮やかな“逃げ”は競馬ファンの記憶に残り続けている

競馬発祥の欧州では逃げ馬は“犠牲”だった

 そもそも、競馬発祥の欧州の競馬には勝つための戦略としての「逃げ」は存在しなかった。ハナを切るのは、ペースメーカーとして、同僚(同一馬主だったり、同一厩舎だったりの有力馬)のために犠牲になる馬。ラビットという言われ方もあり、由来はドッグレースで犬たちの目標として先頭を引っ張るウサギの模型を思わせるからだ。

 流れを変えたのは、あのオリビエ・ペリエが毎年のように日本に短期免許でやってきて、日本の「逃げ」を上手に消化吸収して持ち帰ったことだ。母国フランスで、はじめは奇策と嘲笑されながら、たびたび逃げ切りを成功させたことで、いまや欧州でも戦略の一つとして認められている。

ジャパンカップのキセキの逃げも「問題ない」

 馬の脚質は、携わる人間がその気性的な特性から適性を探って固めていくことが多い。新馬戦の返し馬(ウォーミングアップ)を観察していると気づくのが、群れの後ろについて行きたい馬が多いことだ。1頭で走り出せる馬はすでに主体性を持っている可能性が高い(ただの慌てん坊かもしれないが)わけで、ジョッキーも「それなら逃げてみようか」と考える。そうではない馬は、スタートが決まったとしても誰かの後ろから行く選択になる。そうした試行錯誤の繰り返しで、最も能力が引き出しやすい形に近づいて行って「脚質」となるのだ。センスがいい、と言われるのは、最初から競馬の形になる馬がそう褒められているわけだ。

 逃げは日本では昔から有力な戦法だが、レースレベルが上がるほど成果は上がらないイメージがある。目標とされる不利より物理的なアドバンテージが勝るのが下級条件だが、鋭い決め手を持っているメンバーに入ると前半で溜め込んだリードも一瞬で縮まる。ジャパンカップのキセキの逃げは、馬券を持っているファンはときめいたかもしれないが、追走していたジョッキーたちは「問題ない」と見ていたらしい。そうした追走勢の余裕(油断と言い換えることもできる)が、ときに意外な逃げ切り劇を呼ぶのだが。

【次ページ】 今年の有馬記念にも逃げ宣言をした馬が

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