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新世界王者・中谷潤人 恩師の死、中卒で渡米…日本人初の“世界6階級制覇”が狙える逸材

posted2020/11/09 17:00

 
新世界王者・中谷潤人 恩師の死、中卒で渡米…日本人初の“世界6階級制覇”が狙える逸材<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

ボクシング界に誕生したニューホープ、中谷潤人。井上尚弥が初めて世界タイトルを獲得した日を思い出す

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Hiroaki Yamaguchi

 ボクシング界にニューヒーローが誕生した――。WBO世界フライ級王座決定戦が6日、東京・後楽園ホールで行われ、ランキング3位の中谷潤人(M.T)が1位のジーメル・マグラモ(フィリピン)に8回2分10秒KO勝ちした。

 当初は4月4日に予定されていた試合が度重なる延期で7カ月後にセットされた。3日に大阪で予定されていたWBA世界ライト・フライ級スーパー王者、京口紘人(ワタナベ)の世界タイトルマッチが京口のPCR検査陽性により急きょ中止になったため、これがコロナ禍後、国内初の男子世界タイトルマッチ。慌ただしい雰囲気の中で、22歳のホープが文句のつけようのないパフォーマンスを見せた。

「苦手だった」接近戦で完璧に上回った

 試合の流れは序盤で決まった。

 両者ともに手探りと思われた初回、中谷がマグラモの高く掲げたガードのすき間に左ストレートを打ち抜くと、前に出たいマグラモが早くも後退した。中谷はすかさず畳みかけ、ここはダウンとはならなかったものの、幸先のいいスタートでベルト獲得に大きく一歩踏み出した。

 2回、26歳のランキング1位は意を決し、頭を下げて強引に距離を詰めた。これをサイドに動いていなすと思われた日本のホープは正面からマグラモのアタックを受け止めた。押し負けず、長い手をうまく折りたたんで左右のボディ、顔面へのアッパーを盛んに打ち込む。接近戦でマグラモの思うようにはさせなかった。ここが勝負の分かれ目だった。

 中谷はフライ級では長身の171センチ、懐の深いサウスポーであるのに対し、マグラモは背が低く、厚い胸板が生み出すパワフルなパンチが売りだ。となればフットワークを使って距離を取ろうとする中谷と、距離を詰めてパワーパンチを打ち込もうとするマグラモが互いに自分の土俵で戦おうとせめぎ合う展開になると思われた。ところが中谷がスタートから「苦手だった」という接近戦で完璧に上回ってみせたのだから、マグラモはこの時点で打つ手がなくなったのである。

「そういうこと(相手が距離を詰めてくること)を想定して練習していた。相手を調子づかせたくなかったし、プレッシャーをかけてリングの中心で戦うことがテーマだった」(中谷)

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