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「総合力の高いチームがW杯で勝てる」 コロナ禍の欧州遠征で日本代表が得た“2戦以上の価値”とは 

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byJFA/AFLO

posted2020/10/30 17:03

「総合力の高いチームがW杯で勝てる」 コロナ禍の欧州遠征で日本代表が得た“2戦以上の価値”とは<Number Web> photograph by JFA/AFLO

試合前、日本のファンとリモートハイタッチをする久保建英。欧州遠征では様々な工夫と試行錯誤がなされていた

テレビ中継でも奮闘する人がいた

 スタジアムの外で奮闘する者もいた。日本テレビの関連会社であるNTV Europeの現地中継制作担当、村越威史である。国際映像を制作するオランダのホスト中継車に同乗し、日本代表についての知識がない現地ディレクターにアドバイスを囁いたのだ。

「僕が作った日本代表の顔写真入りの資料も渡して、この選手とこの選手が注目だからね、って。本当はそういうことは失礼にあたるんですけど、オランダのディレクターの方は良い人で、日本代表のことは分からないから、教えてくれて助かるよ、という感じで」

 その一方で、NTV Europeとしてもスタジアム内にカメラを持ち込み、ホスト映像とは異なる独自の画を撮った。途中出場に備えてアップをする久保建英や鎌田大地らの映像を押さえられたのは、こうした理由からだった。

 中継車の中にいる村越は携帯電話を2台持ち、片方からオンエアの音声を、片方では日本からの指示を聞き、それを現場のカメラマンや、レポーターを務めたジャーナリストの中田徹に伝える役目を担った。

「携帯が生命線でしたから、携帯が死なないようにポケットWi-Fiを準備して。二重三重のセーフティネットを用意しましたね。もちろん、私もカメラマンも中田さんも、アムステルダムで事前にPCR検査を受けています。全員が陰性だったことを確認したうえで、3人別々の車で移動しました。JFAがこれだけ徹底して感染対策をしているのに、我々が感染してご迷惑をおかけするわけにはいきませんからね」

「総合力の高いチームがW杯で勝てる」

 10月9日に行なわれたカメルーン戦に0-0と引き分けた日本代表は、4日後のコートジボワール戦に1-0と勝利する。チーム内やチーム関係者はもちろん、メディアからも感染者を出すことはなかった。

 前例のないミッションを成し遂げるにあたって試されたのは、JFAの総合力だったと田嶋は力説する。

「その国の代表チームが、選手の力だけで強くなることはない。強豪国と言われる国は、選手やコーチ陣はもちろん、それを取り巻くスタッフ、医療スタッフ、総務などを含めて総合力が高い。総合力の高いチームがW杯で勝てる。そういう意味では今回、JFAの総合力が試されましたし、総合力を高めるいい経験になったと思います」

 競技運営部・部長の平井と土肥美智子ドクターの言葉は、田嶋の言葉を裏付けるものだ。

「2009年ごろから2、3年に1、2試合、ヨーロッパでJFA主催の試合をやってきたので、我々もノウハウを蓄積してきました。それに、外務省に出向している人間をハブにして各国在外公館と連絡を取ったり、各地の国際委員から情報をもらうというネットワークもあった。それらを最大限に生かせました」(平井)

「今までの遠征と同じようにはいかないとは当然思っていましたが、できないとは思わなかった。どんな問題が起こるか、そのときどう対処するかが分かっていれば、解決できる。今までのスポーツの現場でもそうやって対処してきましたし、この半年間で新型コロナウイルスに対する知識も増えていました。そうしたことから、それほど難しいとは思っていなかった」(土肥)

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