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トルシエが語る「日本人のメンタル」。
中田と本田の同じ部分、違う部分。 

text by

田村修一

田村修一Shuichi Tamura

PROFILE

photograph byKazuaki Nishiyama

posted2020/06/16 08:00

トルシエが語る「日本人のメンタル」。中田と本田の同じ部分、違う部分。<Number Web> photograph by Kazuaki Nishiyama

日本代表を率いていたころのフィリップ・トルシエ。日本サッカーを大きく変えた人物の1人である。

中田と本田の共通点と違い。

 しかし中田は同時に特別な存在であり、若者たちは自分が彼のレベルに到達できるとは想像しなかった。彼は日本ですでに成功していたからだ。小野や中村もそこは同じで、日本が誇るスター選手の移籍だった。

 だから中田は扉を開いたが、中田だから出来たのだと、誰もが彼を特別扱いした。そこには日本人のヨーロッパヘのコンプレックスと、中田に対する畏敬の念とがあった。

 本田の場合は違う。本田にも、中田と比較しうるメンタルの強さと個人としての強さがある。だが、彼が日本を旅立ったとき、日本人ですら誰も彼を知らなかった。本田は自分の価値と名声を、ゼロから築かねばならなかった。しかもオランダの2部リーグから。道は険しく、選手としてだけでなく、人間としてもチームメイトから認められなければならなかった。その意味で本田の成功は、中田に比べるとずっとコレクティブなものだ。

 そうであるから本田は、チームの中でコレクティブな役割を演じることができる。中田はグループから尊敬されていたが、グループを率いる能力は彼にはなかった。本田にはそれがある。彼はグループのリーダーたり得る。そこがふたりの大きな違いだ。

本田や香川は「特別」ではない。

 かつて中田や中村に対して抱いた敬意を、今の若者は本田や香川、長谷部らに対して抱かない。彼らはいい意味でごう慢で野心に溢れ、自分も長友になれると本気で思っている。コンプレックスも感じていない。それは対戦相手に対しても同じで、たとえブラジルが相手でも、何ら恐れを抱くことはないだろう。

 そのメンタルは、私が'02年W杯に向けて築きあげたものとは完全に異なる。私はメンタルを、人工的に作りだした。自然のままでは十分ではない。勝つためには、彼らを覚醒させねばならないと感じたからだ。

 私は選手を刺激し、彼らを挑発した。愛国心や代表への忠誠心を喚起し、情熱とエネルギーを発揮するように仕向けた。オープンなコミュニケーションがとれるように、彼らの心理状態を変えていった。

 選手が自分で現実に対応できるように、私は彼らをマネジメントした。そのために、若い彼らを敢えて厳しい状況に放り込んだ。既成の価値や習慣も、同時に壊しながら。

 効果はあった。実際のメンタルはそこまで強くなかったにせよ、強いのだと思い込むことはできたからだ。かりそめのメンタルではあったが選手は鎧として身にまとい、自分に自信を持ったチームを作ることはできた。

【次ページ】 トルシエ流とザッケローニ流。

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