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ラトビア1部コーチ中野遼太郎の見解。
成功する日本人選手の共通点って? 

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中野遼太郎

中野遼太郎Ryotaro Nakano

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photograph byRyotaro Nakano

posted2020/04/24 08:00

ラトビア1部コーチ中野遼太郎の見解。成功する日本人選手の共通点って?<Number Web> photograph by Ryotaro Nakano

海外での現役生活で痛感したという「自己主張」の差。さまざまな国の人たちと接することで、言語の違いを改めて理解した。

自己主張の貧弱さが居場所をなくす。

 たとえば「日本人は自己主張が苦手」という台詞をよく耳にします。

 僕が身を置いているサッカーの分野においても、勤勉、謙虚、という褒め言葉の裏面で、自分の意見を言えない、という評が付いて回ることは多いです。もちろん人それぞれというのは大前提ですが、基本的な傾向としてはかなり同意しますし、なによりも僕自身が海外でプレーする中で、その性質を自分の内側に見てきました。

 こうした自己主張の貧弱さが、ピッチでは「あいつは言い返してこない」に繋がり、やがて「ミスを押しつけても大丈夫」となり、最後は「上手くいかないのはあいつのせいだ」となり、じんわりと居場所をなくしていきます。その空気はロッカールームから監督にも伝染して、悪くないのに前半で代えられる、みたいなことが起こってきます(僕がシンプルに嫌われていて単純に下手だった、という可能性はここでは考慮しません)。

相手の沈黙にも意味を見出す思考。

 ただ、同時にいつも「主張がないわけじゃないぞ」と思っていました。心に渦巻く感情はあるし、頭のなかでは言葉にもなっているのに、いざ対面での会話になるとうまく伝わらない。海外生活によって民族的アイデンティティーを意識するようになった僕は、自分が日本人であるということ(以前は考えたことすらありませんでした)を強烈に自覚し、その気質をどうやってサッカーに適応させればいいのか、つまり「自分を主張するにはどうすればいいか」をたくさん考えました。友達がいなくて暇だったわけではありません。

 日本には「相手の気持ちに立って考えましょう」という教えがあります。

「あなたはどう思いますか?」よりも「相手はどう思いますか?」を、日常的に尊重できるというのは、実はかなり稀有な思考体系です。僕たちは、相手の意向を「汲む」ことができるし、相手の沈黙や文章の空白にまで意味を見出すことを習慣にしています。「察するから、察してくれ」というコミュニケーションがこれほど定着している国は珍しいのではないでしょうか。

 そしてこの、察する、汲む、という行為は、いわば二、三手先に先廻りすることに似ています。

【次ページ】 暗黙の了解、は特殊能力に近い。

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