全豪で見せたナダルの最大限の配慮。

　今大会中も2回戦でこんなことがあった。25秒という制限時間をオーバーして警告をとられたキリオスは、ナダルのサーブ前のルーティンをモノマネして主審をチラ見。「ナダルだったら警告とらないだろ」という皮肉だ。

　4回戦での対戦が決まると、まずナダルに対してこんな質問が飛んだ。

「2人の間にはいろいろあったけど、ニックのことは好き？」

　ナダルは恐らく最大限の配慮と誠意を見せて、こう答えた。

「個人的には彼のことをよく知らないから、答えるべきではないかもしれない。ただ、良くない振る舞いをする彼はやっぱり好きじゃない。でも情熱を持って、いいプレーを目指してがんばるなら、テニス界にとって大事な選手だと思う」

正論や常識をかざされると不機嫌に。

　過去の「良くない振る舞い」を数え上げればキリがないが、試合中にラケットを壊すとか主審に暴言を吐くくらいはまあいい。

　しかし、観客と喧嘩をしたり椅子を投げたり、試合をやめて帰ったり、試合中に対戦相手に向かって「オレのダチがお前のオンナとヤッたらしいよ」と煽ってみたり、もうそれらは個性として認めてもらえるとか、エンターテインメントとして楽しんでもらえるとかいう域を超えている。

　国内外のレジェンドたちも助言をしたり、更生に乗り出したりしたが、結局、多くは匙を投げた。

　正論や常識をかざしてアプローチしてくる人が大嫌いのようだ。コーチもつけない。記者会見でいつも不機嫌なのは、彼が嫌いなタイプの人間に囲まれるからだろう。ただ、質問者の顔を見てぱっと笑顔を見せたことがある。

「あ！　アンタ、昨日パブで会った人じゃん！」

　いつも露出度の高い服を着た、朗らかなブラジルの女性記者だ。

　随分酔っ払って、偶然キリオスに出くわしたとか。自分と同じ匂い、異なる匂いを嗅ぎ分け、好意と嫌悪を極端な態度で示すキリオス。不屈の精神でキャリアを築き上げてきたナダルは世界中のファンの心を動かすが、キリオスが感じるのは自分と異なる匂いなのではないか。

【次ページ】　キリオスもナダルも個性を見せつけた。