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ただの将棋の強いおじさんではない。
AI時代にすり寄られた木村一基王位。 

text by

片山良三

片山良三Ryozo Katayama

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photograph byKyodo News

posted2019/10/10 08:00

ただの将棋の強いおじさんではない。AI時代にすり寄られた木村一基王位。<Number Web> photograph by Kyodo News

「千駄ヶ谷の受け師」、「将棋の強いおじさん」で有名だった木村一基王位。46歳の初タイトルは彼の真価を世に知らしめた。

「千駄ヶ谷の受け師」たる所以。

 誰が呼んだか「千駄ヶ谷の受け師」。

 彼の棋風をシンプルに表現した絶妙な異名だ。高勝率を残す棋士といえば、鋭い攻めで相手をなぎ倒すタイプが断然多いのだが、木村の将棋は最初から違う。

 あえて薄い玉形に構えて、相手の攻めを受け止め、反撃に転じるのが木村流。しかも、パンチをしっかりと浴びて倒れそうになることもしばしばあるのだが、そのたびに絶妙のバランスで踏みとどまってみせるのだ。

 至芸とも言える受けの技術を、同業者も讃えての受け師の異名。武芸者にたとえての表現を借りれば、肉を斬らせて骨を断つ。

 そんなリスキーな指し方を貫いて、20年以上もトップクラスを維持してきたのが木村の凄さだが、真似をしようと考える棋士は現れなかった。

AIの進化で再評価された木村。

 潮目が変わったのは、意外にもAIの進化によるものだった。

 コンピュータが算出する局面の評価値の正確さをトッププロも参考にする時代になったのはせいぜいここ5年ほどのことなのだが、その間に玉形の堅固さに対する考え方がガラッと変わったのがキッカケ。

 以前は「隙あらばクマ」がプロ間の共通認識。たとえば矢倉模様の将棋であっても、戦いながら穴熊に組み替えることができれば、堅さの分だけリードを奪えるというのがプロ感覚だった。

 ところが、AIはそれをまったく評価しなかった。戸惑いの渦の中から生まれたプロの新しい共通認識は、「堅さよりバランス」。

 そう、木村一基がプロ入り当初から貫いてきた指し方が、実は最も正しかったのだ。

【次ページ】 渡辺明三冠もバランス重視に対応。

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木村一基

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