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英国の小さなサッカークラブ消滅も、
ファンの地元愛と魂は死なない。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2019/09/03 18:00

英国の小さなサッカークラブ消滅も、ファンの地元愛と魂は死なない。<Number Web> photograph by Getty Images

地方クラブを応援する背景には郷土愛などがある。イングランドでも、そんな中小クラブが消滅するケースは皆無とは言えない。

「かけがえのない家族」を失った。

 3部でも昨季24チームの平均観客動員数は約8700人。バリーにしても、4部での昨季ホームゲーム観客動員数は平均4000人を下らなかった。プレミア規模には届かないが、放映権収入の分配もあり、破産寸前の状態でも新オーナー登場に救われる展開に現実味があると思われていた。

 しかし、バリーは残念な例外となってしまった。

 地元民は「最愛の人」や「かけがえのない家族」を失ったように悲しんでいる。当然だ。バリー自体は、人口8万人程度の小さな街である。日本で言えば、筆者が学生時代に住んでいた東京の狛江市と変わらない規模になるが、北西部というエリア全体で眺めればクラブには事欠かない。

 20を超えるプロクラブの中には、20キロ程度しか離れていないユナイテッドとシティというマンチェスターの両雄も含まれる。それでも彼らの「我がクラブ」はバリー以外にあり得ないのだ。

 愛するクラブがなくなったからといって、別のクラブのファンになれるわけでもない。創設年の1885年からのホームで、宅地化が危惧されるギグ・レーンに、「R.I.P Bury FC(バリーFCよ、安らかに眠れ)」と蓋に記した棺桶を持って現れたファンは、ウケを狙ったわけではなく、素直な気持ちを形に表しただけのことだ。

134年の歴史あるクラブの最期。

 125年間に渡って籍を置いたプロリーグを追われたバリーは、今季プレミア20チームと比べても遜色ない134年の歴史と、2度のFAカップ優勝歴を誇る由緒あるクラブだ。「我がクラブ」の最期に立ち会うことになった地元民の様子は、「悲報」として全国的に伝えられた。

 報道によれば、当初の買収期限日の夜、愛するクラブが息を引き取る前にもう一度だけという心境で最初にスタジアムに集まったサポーターの1人は、73歳の女性だったという。

 他にも、83歳の老女、66歳の男性、20代の青年、10代の少年といった地元の老若男女が、バリーを失ったやるせない悲しみとやり場のない怒りを、メディアに語っていた。

【次ページ】 助け舟を出したネビル兄弟も……。

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