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新国立競技場の工事責任者が語る、
超大型工事の進捗と「暑さ対策」。 

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芦部聡

芦部聡Satoshi Ashibe

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posted2019/09/02 07:30

新国立競技場の工事責任者が語る、超大型工事の進捗と「暑さ対策」。<Number Web> photograph by Satoshi Ashibe

小松幸雄さん。

【新国立競技場の施工監理】
東京2020で開閉会式、陸上競技などが行われる新国立競技場。建築家の隈研吾氏が設計した大会の新たな“顔”は、2年半前から順調に形作られ、すでに9割が完成している。今回は、その長い建設過程の様子を工事監理責任者に聞く。

 '16年12月に着工した新国立競技場の完成が近づいてきた。神宮の杜に威風堂々そびえ立つ東京五輪のメインスタジアムは竣工時の座席数約6万席。旧国立競技場の約5万4000席を大きく上回る、国内最大級のスポーツ施設である。発注者である独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の工事監理責任者である小松幸雄さんは、着工直後の更地の段階から進捗状況をつぶさに見てきたひとりだ。

「私がこの業務に就いたのが'17年1月ですから、工事の工程のほぼすべてに立ち会っています。スポーツ施設や運動場の建設現場に従事した経験はありますが、これほど大規模なものは当然初めて。毎日現場を歩いて監理していますが、1日で2万歩は歩いていますから、体力がつきました(笑)。今回の工事は現時点で1日2300人から2500人、最盛期で2800人ほどの作業員が従事する超巨大プロジェクトです。延べ人数ですと単純計算で約130万人を超えています。それにもかかわらず大きなトラブルも無く、順調に進んでこられたのは緻密なスケジュール管理のたまものだと思います。海外の事例では工期が遅れて開幕直前までメインスタジアムが完成しなかったところもあると聞きましたが、新国立競技場は当初の計画通り、今年の11月末に竣工を迎える予定です」

すでに進捗は9割まで来ている。

 当初のザハ案を白紙撤回するなど二転三転した経緯を振り返ると感慨深い。「進捗状況は9割」という現在は、照明やスピーカーなどの機能的なチェック、消防や行政による検査の段階に入っているという。

「いちばんの難所は屋根の取り付けでしたね。60mも軒先が飛び出していて、全体で2万tにもなる。それを400ものユニットに分けて、横・縦に並べていったのですが、重みで徐々に下がってくるわけです。それを計算に入れて、バランスよく荷重が伝わるように設置していく。ほんの数ミリの誤差でも1周すると、とてつもなく大きなズレになりますから非常に難易度は高い。屋根の工事に入ったのは昨年の2月ですが、その前の年には実物大のモックアップを製作し、現場で作業工程を検証しました。ボルトを締めたりといった実作業を担当するとび職の方々をまじえて、安全性を確保するにはここに足場を増やすべきといった検討を重ね、1年3カ月をかけて取り付けました。取り付け工事が終わったときは、『これは凄いものができたな』と感激しましたね。設計者の隈研吾さんは完成像がはっきりとイメージできていたのでしょうが、現場の作業員は日々の役割を積み重ねていくことが大事で、最終的にはどういうものができあがるのか、想像しにくかったと思います。気づいたら巨大なスタジアムが姿を現していたという感じです」

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