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小学生タイトルで3冠達成!
わんぱく横綱の「一瞬の夏」。 

text by

佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

PROFILE

photograph bySumie Toyoda

posted2019/08/20 17:00

小学生タイトルで3冠達成!わんぱく横綱の「一瞬の夏」。<Number Web> photograph by Sumie Toyoda

荒磯親方(元稀勢の里)から横綱土俵入りの指導を受けた重村鴻之介君(親方右)と、太刀持ち役を務めた豊田倫之亮君(右端)。

出場権を争った最大のライバル。

 無敵を誇る豊田君だが、最大のライバルは、すぐ隣にいた。奄美大島・瀬戸内相撲クラブの重村鴻之介(こうのすけ)君である。島を越えての合宿や合同練習、各大会などで幼少時から顔を合わせ、切磋琢磨しながら“親友”ともなったふたり。

 前年度、4年生時のわんぱく相撲全国大会では、豊田君が地方予選でこの重村君に敗れ、出場権を逃した。しかし、今年度はその逆。重村君が敗れ、豊田君が代表となる。代表チームの監督が、「出場枠がもうひとつ欲しいですよ」と苦笑いするほどに、実力の拮抗したふたりなのだった。

 今大会の応援席に、ライバルであるその重村君の姿があった。前年度、豊田君を下して出場した大会で、4年生の部のわんぱく横綱に輝いたのが、この重村君だ。前年度の4、5年生の部の優勝者は、大会名物でもある「わんぱく横綱土俵入り」披露のため、翌年の大会に招待されることになっている。

 荒磯親方(元横綱稀勢の里)の土俵入り指導のもと、堂々たる横綱土俵入りを終えた重村君は、2階応援席の最前列に陣取り、身を乗り出して声を張り上げる。豊田君が一勝するごとに、まるで自分のことのように喜んでいたのだった。

感謝の思いを綴った作文。

 大会を終え、台風の行方に気をもみながら飛行機を乗り継いで帰島した豊田君は、夏休みの宿題として、わんぱく横綱に輝いたこの大会を作文にしたためた。そのなかで、最大のライバルにして親友の重村君が、何度も登場している。

「重村君が『お前は緊張しなくていい。逆に相手の選手のほうがお前と当たるから緊張しているはずだから。』と言ってくれて、緊張がほぐれた」

「緊張でガチガチのぼくに、応援席から重村君が『倫之亮、前に前によ。』と声をかけてくれて、ぼくは、気持ちが落ち着いた」

「重村君がすぐに、水を持ってかけつけてくれて、『倫之亮、強いや。この勢いでいけよ。』とはげましてくれた」(原文ママ)

 頼もしいライバルの“名セコンド”ぶりを、そこかしこに綴り、重村君の存在に感謝するのだ。

【次ページ】 「なんで飾るの? しまっておいて」

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