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「山岳遭難」は25年間で3倍以上に。
報道では分からない数字の裏事情。
 

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森山憲一

森山憲一Kenichi Moriyama

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posted2019/07/15 09:00

「山岳遭難」は25年間で3倍以上に。報道では分からない数字の裏事情。<Number Web> photograph by Kenichi Moriyama

山岳遭難の捜索・救助で「切り札」的な存在のヘリコプター。出動頻度が増加している

「山岳遭難増加」ではなく「通報件数増加」。

 山岳遭難統計というのは、警察庁が把握した事例のみを対象としている。かつては、命にかかわるような大事故でないかぎり、登山者は救助に頼らず自力で解決していた。というより、そうするしかなかった。現在なら救助を呼んでいるような事故でも、だれに知られることなくひっそりと解決されていたものがいくつもあった。

 つまり、現在起こっている事態は、「山岳遭難増加」なのではなく、「通報件数増加」。それが正しい理解の仕方であるはずなのだ。

 しかし、こうした統計数字の裏にある事情を報道は説明してくれないため、「過去最多」というインパクトのあるワードのみがひとり歩きしてしまう。

 登山の現場に関わる人たちは、統計数字ほどには遭難の実態が変わっていないことがわかっているが、新聞やテレビを見る多くの人はそうではない。底上げされた数字から間違ったメッセージを受け取ってしまうおそれもあると思うのだ。

求められる救助体制の充実。

 ただし、遭難の実態が大きく変わっていないとしても、通報件数が増えることによって、警察や消防など、救助にあたる人たちの負担はそれだけ増える。

 たとえば日本でいちばん有名な山岳救助隊である富山県警山岳警備隊は、隊員30人ほどの陣営だが、これは25年前からほとんど変わっていない。通報件数が3倍になったとしても、人員が3倍に増えているわけではない。

 また、ヘリコプターでの遭難救助活動中の事故が近ごろ目立つが、これも出動要請の増加と関係はあるだろう。事故当事者やその家族からレスキュー隊が訴えられるという、以前は考えられなかったような事態も起こっている。

 遭難(通報)急増によるしわ寄せをもっとも受けている警察や消防レスキュー隊のフォローアップと体制充実。これが今、もっとも求められている課題なのではないだろうか。
 
 

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