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伊達公子が没頭した修士論文の中身。
砂入り人工芝は日本テニスの大問題。 

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内田暁

内田暁Akatsuki Uchida

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photograph byHiromasa Mano

posted2019/06/24 17:00

伊達公子が没頭した修士論文の中身。砂入り人工芝は日本テニスの大問題。<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

現役引退後も伊達公子は日本テニスのために尽力している。その1つが、砂入り人工芝コートへの提言だ。

低いバウンドを打つ能力に特化。

 伊達の言う「裏付けとなるデータ」とは、例えば、「幼少期にテニスを始めた頃に、使用したサーフェスは?」というトッププロへの質問に対する回答が、「屋外クレー」52.3%、「屋外ハード」47.7%、「屋外砂入り人工芝」6.8%だったこと。

 あるいは、砂入り人工芝の印象を問うた際の、「好き」22.7%、「嫌い」52.3%という数字。また、嫌いな理由で最も多かったのが、「滑りやすい」54.5%、次いで「他のサーフェスと違う箇所にストレスがかかる」29.5%、「ボールのバウンドが低く調整しにくい」25.0%、などだ。

 砂入り人工芝でのプレー経験の少ない選手がやりにくさを感じる要素とは、翻って、日頃そのサーフェスでプレーしている選手たちが、特異的に上達している能力でもある。

 つまり日本では、砂入り人工芝で上手に滑り、低いバウンドのボールを打つ能力に特化したプレイヤーを量産することになる。そして磨きをかけたそれらの技能は、いざ世界に出た時には、むしろ弊害となることが多いのだ。

育成なら砂入り人工芝、という考え。

 これらトッププロやコーチからの回答は、大筋で伊達の予想通りである。しかし一部分には、彼女の認識とは異なる集計結果もあった。

「これは本当に驚きのひとつだったのですが……私は、国内でジュニアや学生、競技者の育成に携わっているコーチたちは、実際にはハードやクレーコートを望んでいると思っていたんです。望んでいるけれど状況的には難しく、理想と現実の間で悩んでいるのだと。

 ところが蓋を開けてみたら、『育成に砂入り人工芝が向いている』と思っている人が80.9%だったんです。これには正直、愕然としたし、こういう見えていない現実があったのかと思い知らされもしました」

 伊達が、こうした状況に危機感を抱く訳は、世界ランキング1位の大坂やトップ10に長く定着する錦織を擁する一方で、後進が育っていない日本テニス界の現実にある。特に女子では、大坂以外はシングルスの100位以内に1人もいないのが現状だ。

【次ページ】 岐阜はハードコート化に成功。

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