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北京五輪4継の日本の“繰り上げ”銀。
原因の選手は「何も話したくない」。 

text by

及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byAFLO

posted2019/05/18 17:00

北京五輪4継の日本の“繰り上げ”銀。原因の選手は「何も話したくない」。<Number Web> photograph by AFLO

世界リレーの会場で、「繰上げ」銀メダルを授与された、(左から)朝原宣治、高平慎士、末續慎吾、塚原直貴。

メダル剥奪の原因になった選手が復帰。

 4人が銀メダルを受け取った約3時間後、大会最後の種目、男子400mリレーの決勝にはジャマイカの金メダル剥奪の原因を作ったネスタ・カーターの姿があった。出場停止処分が終わり、再び、世界の舞台に出てきていたのだ。

 カーターが1走を務めたジャマイカは38秒88で6位に終わったが、チームメイトたちと穏やかな表情で引き揚げてきた。

 カーターとは既知の間柄だ。向こうから「久しぶり」と声をかけてきた。

「久しぶり。元気だった? レースはどうだった? 会場の雰囲気は?」

 ゆっくりと質問を投げかける。

「みんないい走りをしたから、結果には満足。日本の皆さんは親切で、日本が大好きだよ。雰囲気もとても良かったし、また日本に戻ってきたい」

 こちらが本当に聞きたい質問など予想もつかないだろう。ニコニコと笑顔で饒舌に答えてくれた。

「何も話したくない」と言うと走り去った。

 意を決して核心に触れる。

「あなたの薬物違反でジャマイカは金メダルを剥奪され、日本が繰り上がりましたが、それについてどう思っていますか」

 カーターの顔からサーっと血の気が引き、表情が一気に強張った。視線が宙を泳ぎ、必死で言葉を探している。

 沈黙が続いたが、言葉を発するまで待つつもりだった。無言の圧力を感じたのかしばらく経って、なんとか言葉を絞り出した。

「何も話したくない」

 頭に血が上りそうなのを抑えて、聞き返した。

「何も?」

 カーターは目を合わせず、再びつぶやいた。

「何も話したくない」

 そう言うと、着替えの場所に駆け足で去っていった。

【次ページ】 反省でも無実の訴えでもよかったのに。

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塚原直貴
末續慎吾
高平慎士
朝原宣治

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