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白鵬が貴景勝に出した注文を考える。
突き押し相撲は安定感が無いのか。

posted2019/05/11 15:00

 
白鵬が貴景勝に出した注文を考える。突き押し相撲は安定感が無いのか。<Number Web> photograph by Kyodo News

突き押しで大関に昇進した貴景勝が、ここからどんなスタイルでさらに上を目指すのだろうか

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西尾克洋

西尾克洋Katsuhiro Nishio

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「長く地位を務めるには、押し相撲一本じゃね」

「それなりに四つ相撲も覚えないといけないなと思います」

 3月場所の全勝優勝を決めた白鵬は千秋楽から一夜明けての会見で、大関昇進が事実上決定していた貴景勝についてこう語った。白鵬のこの言葉は議論を呼び、貴景勝のスタイルを多くの相撲ファンが考えさせられることになった。

 そもそも、大関に昇進する力士の取り口が議論の対象になること自体が記憶に無い。白鵬の影響力と、貴景勝への期待の大きさによるものだろう。

 貴景勝は突き押し相撲に特化した力士だ。昨年の九州場所の初優勝は、寄り切りでの勝利が一番も無い極めて珍しいものだった。これは史上13例目である。

 関取昇進後の決まり手を集計すると、押しでの勝利比率が実に97%というデータもある。大関昇進前の成績で比較すると、同じ突き押し相撲の武双山は68.6%、四つ相撲を覚える前だった曙が73.0%、「押しは大関、引きは横綱、組んだら序二段」という言葉で表現されることのあった千代大海でさえ87.4%という数字である。貴景勝の数字がどれだけ異例かお分かりいただけるだろう。

大関昇進者で異例なことは確か。

 大関に昇進するほどの力がある力士は通常、突き押しでの勝利比率は高くても7~8割といったところだ。つまり、突き押し以外にも勝てる形を持っているのである。

 貴景勝ほど極端に突き押しに特化した力士は、大関昇進経験者では他に大受(96.7%)くらいしかいない。そしてその大受も、故障に悩まされた影響もあって大関在位は5場所だけだった。データから考えてみても、白鵬の指摘は的を射ていることが分かる。

 貴景勝が四つ相撲を覚えるべきという意見は、おそらくずっと出続けることになるだろう。今までの常識の枠に収まらない力士は、いつの時代も批判を浴びるものだ。日馬富士も横綱相撲を覚えるべきという意見が少なからずあったし、貴ノ浪もオーソドックスな四つ相撲を取るべきと言われ続けてきた力士だった。

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