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44歳伊東輝悦と41歳明神智和は
今、J3という戦場でボールを追う。

posted2019/05/03 09:00

 
44歳伊東輝悦と41歳明神智和は今、J3という戦場でボールを追う。<Number Web> photograph by Atsushi Kondo

シドニー五輪や日韓W杯など、大きな舞台でも“らしさ”を見せていた明神智和。今も愚直にボールを追い続けていた。

text by

近藤篤

近藤篤Atsushi Kondo

PROFILE

photograph by

Atsushi Kondo

Jの舞台でも、代表でも記憶に残る活躍をした“いぶし銀”は
40歳を越えてもボールを追い続けている。対照的でいて、どこか通じる
2人の「今」に、彼らをファインダー越しに見てきたカメラマンが迫った。
Number971号(2019年1月31日発売)の特集を全文掲載します!

 1月第2週の金曜日、僕は長野駅前からタクシーに乗りこむ。パルセイロのクラブハウスまでお願いします!

 午前9時、上空は晴れわたっているのに、朝の光の中を小さな雪の粉が舞っている。日本中どこに行っても冬だけれど、長野市のそれはちょっと寒すぎる。

 タクシーは千曲川に沿って走り、やがて古びた三角屋根の建物の前で止まる。施設の名前は「リバーフロントスポーツガーデン」、パルセイロの事務所はここにある。その反対側の河川敷には、真っ白な雪で覆われた練習グラウンドが広がっている。

 ドアを開けて中に入ると、大きな灯油ストーブから懐かしい冬の匂いが漂ってくる。正面奥には2階へと続く階段があり、その脇、共用トイレの手前の小さなスペースで、黒いトレーニングウェアに身を包んだ選手が床に敷いたマットの上で向こう向きになり、体幹トレーニングに勤しんでいる。たぶんパルセイロの選手なのだろう。まだ開幕前、なかなか熱心じゃないか。彼がこっちを向く。明神選手じゃん!(笑)

 彼はマットから立ち上がるとこちらに向かって丁寧な会釈をし、再びストレッチと体幹トレーニングに戻る。しばらくすると、ちょっと外走ってきていいっすか? とたずねてくる。どうぞどうぞ。

3人の天才と8人の明神。

 明神智和、あと2週間で41歳になる。

 今からもう20年ほど前、当時オリンピック代表、そして日本代表を率いていたフランス人監督、フィリップ・トルシエは彼を評してこんな台詞を口にした。

「3人の天才と8人の明神がいればいい」

 トルシエは言わなくてもいいことをやたらと言ったフランス人だったが、これは彼の残した数少ない名言の一つである。

 実際、明神智和はものすごく役に立つボランチだった。ポジショニングに長け、戦術理解度が高く、素早く身体を回転させてあっという間に相手のボールを奪った。彼はタフであり同時に賢かった。プロデビューは柏、2006年に移籍したガンバ大阪で名声を確固たるものにした。味方にすればどこまでも頼りになり、敵に回せば果てしなく嫌な相手だった。

【次ページ】 J3の環境にも「慣れてしまえば」

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