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イングランドの二重国籍選手問題。
20歳ライスは裏切り者ではない。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byUniphoto Press

posted2019/03/27 10:00

イングランドの二重国籍選手問題。20歳ライスは裏切り者ではない。<Number Web> photograph by Uniphoto Press

EURO2020予選のチェコ戦でイングランド代表デビューを果たしたライス。成長著しい20歳には強豪クラブも関心を寄せている。

「有望株はイングランドへ」は改めるべき。

 イングランドを選ばなかった若手には、2016年にコートジボワールに代表チームを変えたウィリフレッド・ザハがいる。クリスタルパレスでレギュラーを張るFWの決断は国内で物議を醸した。だが、'11年にビクター・モーゼスがナイジェリアを選んだ際には、大して批判も嘆きも聞かれなかった。

 その後、'17年にチェルシーのリーグ優勝に正ウイングバックとして貢献するモーゼスだが、その6年前の時点では、強豪での定位置獲得は難しいだろうストライカー兼ウインガーと見られていたのだ。

 こうした反応からは、イングランド代表としては多くを望めそうにないレベルの選手は他国代表を、主力化が期待される有望株は母国代表を選ぶのが「当たり前」とでもいうような、「サッカーの母国」ならではの考え方が窺える。

 これも、A代表を選択できる立場の選手がより多くなる傾向の中で改めるべきものだ。昨年9月までFA(イングランドサッカー協会)でエリート選手養成の責任者を務めていたダン・アシュワース(現・ブライトンのテクニカル・ディレクター)は、「もはや、この国の選手は自然とイングランド代表でプレーしたがるなどと高をくくっている時代ではありません」と発言している。

アンダー世代の大半は二重国籍。

 さらに、ドイツの協会関係者がイングランドの育成ハブに当たるセント・ジョージズ・パークを視察に訪れたことから、代表復興の下地を築いた功労者としてコメントを求められたアシュワースは、「代表候補の底辺の広がりを最大限に生かさない手はないでしょう」と、能動的アプローチを推奨してもいる。

 アシュワースによれば、U-15世代で目をつけている75名のうち、実に55名が二重以上の国籍の持ち主だとか。A代表を率いるサウスゲイトも、U-16代表の半数以上が二重国籍者だと指摘している。イングランド選手としての活躍が目に止まれば、それだけ将来のA代表選手を他国にさらわれる可能性も高まるわけだ。

 イングランドがライスの勧誘に動いたきっかけは、当時19歳にしてトルコ戦とアメリカ戦でMVP級の活躍を見せ、完封負けしたフランス戦でも個人的には見劣りしなかったアイルランド代表でのパフォーマンスがあった。

 もちろん、所属するウェストハムで今季、先発したリーグ戦28試合(第31節終了時点)でボランチを務め、チームのトップ10争いに貢献している姿も評価の対象だろう。本来は守備力の高いCBだけに、中盤と最終ラインの双方で中央の選手層が薄い代表関係者が目を止めなかったはずはない。

【次ページ】 国籍選択を強化策の一環として。

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