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おやじ市民ランナーの挑戦。
「東京マラソンでサブスリー」への道。 

text by

柳橋閑

柳橋閑Kan Yanagibashi

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photograph byHiroki Ban

posted2018/12/30 07:30

おやじ市民ランナーの挑戦。「東京マラソンでサブスリー」への道。<Number Web> photograph by Hiroki Ban

東京マラソンでのサブスリー達成に向けて、11月に練習を開始したサブ3.5ライター。

ゾーンに入って自己ベストに迫る!

 ただし、以前のようにタイムに頭を支配されて、強迫観念的に練習することはやめにした。週末は仲間と山へ出かけてトレイルランニングを楽しみ、ときおりスピード練習で刺激を入れる。重点レース以外にもいろいろな大会に出てみて、それをペース走のかわりにする。そんなイメージで取り組んでみたところ、スピードは上がらないものの、いままでにない持久力を感じるようになった。

 2月の別府大分毎日マラソンでは久しぶりにゾーンに入ったような感覚で走り、3時間10分55秒(ネット3時間10分24秒)を記録。4年ぶりに自己ベストに肉薄するタイムが出た。「そうか、こういうアプローチでもフルマラソンは走れるのか」。新鮮な発見だった。

 2018-19年シーズンは、昨季のアプローチをベースに、もういちど自己ベストをめざしてみるか──。そう思っていた矢先のNumberDoの「おっさんずラン」特集だったのである。僕が中年市民ランナーなりに挑戦を続けているという話をすると、「それだったら、企画としてサブスリーをめざしてみない?」とデスクから提案された。サブスリーかあ、自己ベストならめざしたいけど、サブスリーはなあ……またノイローゼみたいになっちゃうかなあ……と一瞬ためらったが、気がついたら「やります」と言っていた。きっと、心の奥底ではそれを求め続けていたんだと思う。

 3時間という数字にどんな意味があるのか? 仮に達成したとして、それが自分の人生においてどんな意味を持つのか? そういう哲学的疑問はすべて後回しにして、とにかく走ることにした。マラソンにおいては走ることでしか何も解決しない。

 11月にトレイルシーズンを終えると、すぐにロードの練習に取りかかった。サブスリーをめざすなら、いままでのスピードでは話にならない。まず5000mのタイム向上をめざしてスピード練習に明け暮れた。そして、迎えた初戦が12月2日の湘南国際だったというわけだ。

苦しさは波のように押し寄せる……。

 10kmまでは体の動きもよく、順調だったが、その後いちど苦しさの波がきた。

「ちょっと早いな」と思いながら、我慢していると回復した。マラソンではよくあることだ。ところが、江ノ島の第一折り返しでまた波が来る。

 ハーフ以降はじわじわと脚が重くなり、ストライドが狭まり、タイムが落ち始めた。こうなるとただの波ではなく、失速の始まりを意味する。しかし、動かなくなってきた体を何とかして動かすというのも今回のテーマだ。腕振りを意識したり、股関節のリラックスを心がけて、何とか動きを工夫してみる。さらに、給水しながら脚に水をかけると、多少は筋肉が生き返る感覚があった。

 完全に失速したのは26km。ペースが4分40秒台になり、血管に鉛を注入されたように全身が重くなった。力を入れてストライドを広げようとすると、ますます動かなくなるので、ピッチだけを保つ意識でこつこつ進む。

【次ページ】 ヨレヨレになって傾いて走っている人も。

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柳橋閑
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