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甲斐拓也を支える捕手用具の匠。
大阪の下町メーカーの技術とは。 

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小西斗真

小西斗真Toma Konishi

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photograph byHideki Sugiyama

posted2018/11/07 10:30

甲斐拓也を支える捕手用具の匠。大阪の下町メーカーの技術とは。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

甲斐は日本シリーズで14打数2安打だったが、シリーズ記録6連続盗塁刺によって、MVPに選出された。

多くの捕手が信頼するメーカー。

 走者がスタートを切り、先の塁に到達するまでは3.2~3.3秒かかるといわれる。対する投手はクイックモーションの及第点が1.3秒。捕ってから捕手が投げ、二塁に到達するまでが1.9秒。それを甲斐は速いときは1.7秒台を計測する。捕球ミスや送球がそれたりしなければ、盗塁成功は望めない。

 短いリーチというアドバンテージはあるにせよ、早く、正確なスローイングをするためには的確なキャッチングが求められる。

 捕手にとって最も大切な商売道具をサポートしているのが「ハタケヤマ」というメーカーだ。野球用品全般を製作しているが、プロ野球界から圧倒的な支持を得ているのが捕手用具だ。NPBの現役選手の半数近くは同社製のミットを使用していると言われ、ブルペン捕手など球団スタッフならさらに増える。近年は韓国球界に進出し、10球団の正捕手のうち8球団が愛用している。

甲斐のミットはなぜ“浅い”?

 現役時代の谷繁氏もミットに関してはハタケヤマ一筋。リーチの短さで似通っている谷繁氏と甲斐だが、同社の畠山佳久社長によると、ミットの特徴は対照的だという。

「甲斐選手のミットは浅いんです。うちが作ってきた中では(西武の)炭谷選手と並ぶほどですね。逆に谷繁さんのは群を抜くほど深かったんですよ。佐々木さんのフォークを何とか捕り逃がすことのないようにと試行錯誤しているうちに、誰よりも深いミットになりました。深いということは投げるときに(右手で)取り出すのも難しいのですが、谷繁さんは右手でつかむというよりも『ポンッ』とミットから出す技術がありました」

 試合だけに使ったとしても、通常は1シーズンたてばミットの寿命は尽きる。ところが甲斐のミットはもう3シーズンを終えたという。「さすがに来年は無理でしょう」と畠山社長は笑ったが、それだけ甲斐が気に入っている証しであり、耐久性に優れている証明でもある。走者が走れば少しでも早く右手に握り替える必要がある。そのためには、浅いにこしたことはない。

 つまり「甲斐モデル」が一般向きであって、大魔神・佐々木主浩の代名詞であるフォークを意識して生まれた「谷繁モデル」は特殊型といえるだろう。

 もっともソフトバンクのエースと言えば「お化けフォーク」の千賀滉大。捕球困難な球種であるのは同じだが、ミットにさえ収まればボールを右手でつかみ出す方が投げやすいというのが、甲斐が求める感覚のようだ。

【次ページ】 ワンバウンドを止める技術。

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甲斐拓也
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