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飯伏幸太、逆オファーインタビュー。
「棚橋さんの中に“猪木”を感じた」 

text by

堀江ガンツ

堀江ガンツGantz Horie

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photograph byGetty Images

posted2018/09/30 10:00

飯伏幸太、逆オファーインタビュー。「棚橋さんの中に“猪木”を感じた」<Number Web> photograph by Getty Images

2018年G1クライマックス優勝決定戦、飯伏幸太(左)は棚橋弘至と激闘を繰り広げた。

棚橋とケニーの間で揺れ動き。

 そして試合後、飯伏は棚橋からその“返答”を無言のうちに求められたという。

「僕は棚橋さんに負けた後、精根尽きて、5分くらいリング上でぶっ倒れてたんですよ。そうしたら棚橋さんは、倒れている僕の手をすごい力で引っ張ったんです。

 その時、『あっ、これは棚橋さんからの最後の通告だな』と感じたんですよ。『お前は、こっち側だろ? ケニーのプロレスではなく、棚橋プロレスだろ? こっちにこいよ』っていうメッセージが、すごい力で引っ張る手から感じられた。

 それに対して僕は、一瞬『はい、そっちに行きます』という感じで、手を引かれて立ち上がって、ハグをしようかとも思ったんですけど、そこでケニーの顔が見えて、『ああ、俺はそっちじゃない』って思い直して抵抗したんですよ。

 そうしたら棚橋さんが突き放すように、手を離したんです。あれは棚橋さんが僕に対して『おまえは、俺を継ぐ気はないんだな』と感じたからだと思うんですよね。

 それで僕は自分で立ち上がって棚橋さんと向かい合ったんです。次に何をやるかといえば、握手をするか、顔を張るかのどちらか。で、そのとき棚橋さんが『張れ』って目で合図してるのがわかったんですよ。棚橋さんは張らせることで、『飯伏は自分と対立するアスリート・プロレスの人間だ』ということを観客にわからせようとした。

 でも、僕は『“棚橋プロレス”をそのまま継ぐ気はないけれど、“アスリート・プロレス”の人間でもないよ』ということを示したかったので、握手もせず、張りもせず、両手を挙げた。あれは『どちらも選ばない』という僕の意思表示だったんです」

アントニオ猪木に一番近いのでは。

 飯伏は、G1決勝戦の試合後、短いやりとりの中で今後の方向性を棚橋に迫られたと感じていた。そして、そんな無言の問いかけを仕掛けてくる棚橋に“あのレスラー”を感じたという。

「あの“謎かけ”のようなものをプロレスの中で仕掛けられたとき、棚橋さんは“アントニオ猪木”に一番近いレスラーなんじゃないかと感じたんですよ。僕は猪木さんと直接試合をしたことがないので想像でしかないですけど、僕の想像上の"アントニオ猪木"に近かったんですよね。

 だから棚橋さんは猪木さんを否定して、いまの新しい新日本プロレスを作ったと言われているけど、ちょっと違うんじゃないか。猪木さんと真逆に見えて、一番近いものを持っているのが、実は棚橋さんなんじゃないかなと思ったんです。

 棚橋さんの中に“猪木”を感じたことで、僕はますます棚橋さんに興味がわいてきましたね。

 以前は、現代プロレスの技術がすごい人ということで尊敬して“神”と呼んでいたんですけど、そっちじゃない方向で興味がわいたというか。棚橋さんのこれまで見えなかった奥深さをのぞいてしまったので、それを奪ってみたくなりました。あの一戦で感じたのは、そこですね」

【次ページ】 「飯伏プロレス工場」に変えるか。

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