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“次世代クライマー”の勢いが止まらない。
世界ユース選手権で煌いた日本人たち。 

text by

津金壱郎

津金壱郎Ichiro Tsugane

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photograph byAFLO

posted2018/08/31 11:00

“次世代クライマー”の勢いが止まらない。世界ユース選手権で煌いた日本人たち。<Number Web> photograph by AFLO

ロシアで開催された世界ユース選手権リード男子ジュニアで優勝した楢﨑明智。

土肥圭太は国境を越えた友情を。

「フィリップに『今年は出られない』と伝えたら、『それは残念だけど、ユース世界選手権の決勝1枠が空いたのはうれしいね』と返事が来ちゃって」

 悔しさを滲ませながら、そう語るのは2000年生まれで、高校3年の土肥圭太(どひ・けいた)。この春から日本山岳・スポーツクライミング協会の五輪強化選手に入りW杯を転戦する彼でさえ、ユース世界選手権の出場権を手にできないほど、ジュニア男子の国内選考会はハイレベルだった。

 このカテゴリーでユース世界選手権に出場したのは、W杯ボルダリングで表彰台経験のある楢﨑明智、同じく五輪強化選手で八王子W杯で決勝に残った原田海、今季のW杯リードで決勝に2度進んでいる田中修太、初めてユース世界選手権代表の座を射止めた今泉結太の4選手。

 4度目の出場となった楢﨑は、過去に単一種目での優勝経験はなかったが、出場できる最後のユース世界選手権となった今大会で、ボルダリングとリードを制して二冠に輝いた。

 原田も両種目で3位になった一方で、“ジュニア1年目”の田中はボルダリングでは準決勝に進出して13位と健闘したものの、得意のリードでも13位。昨年はユースAのリードで優勝し、今年のW杯リードでも決勝に2度進んだ本領を発揮できないまま準決勝で沈んだ。

 その田中とは対照的に、溌剌としたパフォーマンスを見せたのが今泉だった。リードは準決勝止まりの20位だったが、得意のボルダリングでは5位。昨年の同大会ユースAでボルダリングを制し、大会前に土肥に「決勝1枠が」と伝えていたフィリップ・シェンク(イタリア)を決勝進出目前の7位に追い落とし、強豪が居並ぶなかでファイナリストになった自信を今後の飛躍に繋げたいところだ。

 土肥は2015年から3大会連続で出場し、ボルダリングでは2015年と2017年がシェンクに次ぐ2位、2016年は1位になった。今年の対決が実現できなかったことで、「来年はユース世界選手権に出られる最後の年なので、必ず出場権を手にします。フィリップとの決着が待っているので」と、すでに来年の出場に意気込んでいる。

 各国の同年代の選手たちと鎬を削りながら、土肥とシェンクのように国境を越えて友情が生まれるのも、ユース世界選手権ならではの光景。スマホが普及し、SNSなどで交流を取りながら、同年代の国内・海外のライバルの存在に刺激を受け、それを成長の糧に変える。ユース世代のコンペティターたちにとって、来年のユース世界選手権への戦いはすでに始まっている。

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