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太田雄貴が見たフェンシング世界大会。
日本勢メダルなしも将来性はある。 

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太田雄貴

太田雄貴Yuki Ota

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photograph byKyodo News

posted2018/08/01 07:30

太田雄貴が見たフェンシング世界大会。日本勢メダルなしも将来性はある。<Number Web> photograph by Kyodo News

女子フルーレは、健闘を見せて団体5位。国内にライバルがひしめき合う状況が全体の競技力を押し上げている。

強化が進んだ3つの理由とは?

 なぜ、ここまで強化が進んできたのか。

 1つは、間違いなく東京五輪効果です。自国開催のオリンピックに出場したい、というモチベーションが、競技力の全体的な底上げにつながっていると思っています。

 それからもう1つ、こちらもオリンピック絡みではありますが、現在の若手のマインドセッティングが、私が20代のころの状況とは異なっていること。

 現在の日本代表の主軸となる20代の選手たちの多くは、私が2008年に北京五輪で銀メダルをとったときに、小中学生でした。私が「なんとかしてメダルを獲る!」という気持ちで戦っていたのに対して、彼らは若いころから「太田雄貴がメダルを獲った。ならば金メダルを獲るぞ」という目標設定でフェンシングと向き合っているのです。この差は大きいと思います。目標設定が高ければ高いほど、そこに向かって登っていくスピードも速いのですから。

 そして3つ目。指導体制のさらなる強化、具体的に言えば、外国人コーチの存在です。

 2003年、日本フェンシング協会は、ウクライナのオレグ・マツェイチュクと、初めてのプロコーチ契約を結びます。彼の指導を受け、私が2008年の北京五輪で飛躍を遂げたことはよく知られていることかと思います。

 現在は、男子フルーレのオレグだけでなく、女子フルーレはフランスのフランク・ボアダン、男女エペはウクライナのオレクサンドル・ゴルバチュク、そして男女サーブルは韓国のリー・ウッチェが統括コーチを務めています。

コミュニケーションとマネジメント。

 彼らが、日本人コーチと比べて、特別なコーチングの技術を持っているか、といえば、そういうことではない、と思います。ただ、彼らはフランス語、英語が堪能ですから、審判としっかりコミュニケーションがとれることは大きなアドバンテージです。

 そしてなによりも、彼らは勝たせるマネジメントができる。選手がどのポイントで不安になるのか、迷うのか、といったところをしっかり理解しているので、的確なアドバイスができる。たとえば自分よりも強い選手とやるときには、使う技をどう絞り、どのタイミングで出すのか、といった戦略、戦術をしっかりと選手に授けられるのです。

 たとえば女子フルーレを見てくれているフランク・ボアダンは、一時期低迷していたフランスを復活させたコーチで、フランス・フェンシング界の「GOD」とも呼ばれていた存在です。菊池小巻が2017年の世界ジュニアカデを、上野優佳が今年の同大会を制し、今年のアジア大会は菊池が、そしてW杯グランプリで宮脇花綸が2位に入りました。これらはすべて、フランクがコーチとして関わった大会です。

【次ページ】 日本人コーチの成長と共通メソッドを。

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