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大谷シフトに、1回限定の先発投手。
メジャーは野球の常識を常に疑う。
posted2018/06/02 11:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Getty Images
大谷翔平が「投打二刀流」でプロ野球の概念を変えるずっと前から、メジャーリーグは――まったく違う方法で――既成概念への挑戦を続けてきた。
打率より出塁率。出塁率よりOPS(出塁率+長打率)。守備に依存しない防御率。守備における貢献度や攻撃における得点への貢献度を正しく割り出す数式……等々。
選手の力量を見極める新しい指標が発見され、今では普通に使われている。それらの新しいアイディアを検証するため、本拠地球場のみならず、傘下のマイナー球場やキャンプ施設にまでカメラが多数設置され、あらゆる角度から映像解析をすることができるようになった。
高速度撮影による映像をデジタル処理して、もっとも効果的な球の回転数や回転軸、打球の角度まで検証されるようになった。
スカウトの裸眼だけで選手の力量を見極めたのは遠い過去の話だ。今ではストップ・ウォッチやスピードガンといった道具を使うスカウティングですら、伝統的な手法になっている。
データから守備位置を割り出す。
そして、その中で成熟したのが「極端な守備シフト」だ。かつては引っ張り専門の打者に対して「右打者だから」、もしくは「左打者だから」という理由だけで、野手が定位置から少し右に寄ったり、左に寄ったりしていたのが、今では内野手が片方に3人一気に寄ることも珍しくない。
それは各打者の打球方向がデータ化され、かなり正確に「この位置にいればアウトになる確率が高い」と割り出せるようになったからだ。
そういった「極端な守備シフト」自体は大昔からあり、かつては「最後の4割打者」テッド・ウイリアムスのような強打者に使用される特別な戦術だった。
それが生涯(762)とシーズン(73)の両方で最多本塁打記録を持つバリー・ボンズや、2006年のナ・リーグ最優秀選手ライアン・ハワードといった左の強打者の登場によって再試用され、打球方向がデータ化された今では下位打線の打者相手にも「極端な守備シフト」が取られるようになった。