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亀海喜寛が抗ったボクシングの常識。
「世界の中心」に手をかけた世界戦。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byAFLO

posted2017/08/28 16:30

亀海喜寛が抗ったボクシングの常識。「世界の中心」に手をかけた世界戦。<Number Web> photograph by AFLO

亀海が戦うスーパーウェルター級は、ミドル級の1つ下。人気と選手層のレベルが世界的にも極めて高い激戦区なのだ。

36歳の王者のスタミナ切れを狙っていたが……。

 アメリカでの戦績は3勝3敗2分。決して最初からうまくいったわけではない。その間、守備的だったスタイルを大胆にも攻撃的に変え、最初から最後まで攻め続けるためのスタミナを強化した。すべては海外で勝つために考え出したことだった。

 亀海のすべての思いが込められた初回の攻防は、我々に大きな期待を抱かせた。しかし、歴戦の雄コットの顔に不安の影が差したのはわずかな時間だった。亀海のプレスをフットワークとボディワークでいなすと、正確なブローを亀海の顔面に次々と叩き込む。コットは2回以降、ラウンドを重ねるごとに調子を上げていった。

 とはいえ、36歳のコットはこれがアルバレス戦以来1年9カ月ぶりの試合であり、圧力をかけ続ければ、後半は必ず落ちてくる。亀海陣営はそうにらんでいた。

「捕まえられないとは思っていない。コットも自分のような圧力の強い選手と試合をしたことはないですから」

 そう話していた亀海だが、中盤に上腕部に疲れが生じてしまい、足は前に出ているものの、思うように手数が伸びない事態に陥る。何とかしようと距離を詰めるとコットのパンチを被弾するという悪循環。結局、最後まで展開を変えることができず、亀海は打たれ強さと強靭なハートをアピールしたものの、勝利を手にすることができなかった。スコアは120-108、119-109、118-110。完敗だった。

日本では、重いクラスの選手が歓迎されないことも。

 日本では、中量級以上(主にライト級以上)の有力選手が歓迎されないことがある。国内の選手層が薄い重いクラスの選手は、練習相手を見つけるのも、対戦相手を呼ぶのも、軽量級よりは困難を伴うことが多い。世界との実力差も大きく「重いクラスの選手は苦労したところで世界チャンピオンになれない」と敬遠する向きがあるのだ。

 亀海はそうした“常識”に強く反発し、アメリカをベースにしてチャレンジをし続けた。もちろん資金力のある帝拳ジムの選手だからできるチャレンジではあるが、重いクラスの多くの選手に夢と希望を与えていることは間違いないだろう。

「俺はもっと強くなって戻ってきます。ビッグネームに勝ちたいというのが俺のモチベーションです」(亀海)

 コットという大魚を逃したことが、さらなる成長につながるのか。亀海の戦いはまだ終わらない。

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亀海喜寛

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