プロレスのじかんBACK NUMBER
ベルトを巻かない王者・柴田勝頼。
限りあるプロレスラー人生を思う。
posted2016/02/16 10:40
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph by
Essei Hara
「あの日、中邑と話したこと? 言わないほうがいいでしょう」
1月30日、後楽園ホールでのラストマッチを最後に、新日本プロレスを退団した中邑真輔。大会終了後の控え室で、長年、犬猿の間柄であった柴田勝頼は、自ら中邑に声をかけていた。
「10年前だったら成立しないシチュエーション、会話だったとは言えるでしょうね。ほかの選手がみんな意外とハケるのが早くて、俺はまだひとりシャワーを浴びたりしてたんですよ。そのあと、なんとなく『まだいるかな?』と思って向こうの控え室を覗いたら、いたんで。(声をかけたのは)たまたまですよ」
ほんの二言三言だったが、2人きりで会話をしてみて、中邑に対する印象が変わることはさほどなかった。ただ、柴田が新日本を退団した10年前の頃と比べて、「意外と物分かりがいいやつなんだな」と感じた。
10年という時間は、人も、取り巻く状況も、大きく変化させていた。
「もし、俺があいつの控え室に顔を出したとしても、無視されていたかもしれない。その前に、俺も何も言わないで帰っていたかもしれない。うん、10年前だったらそうだったでしょうね」
「『向こうに行ってもがんばれ』とは言わない」
同学年。36歳となった柴田は、中邑の退団、WWE行きを他人事と捉えることはできなかった。自分もこれから、残された、限りのあるレスラー人生をどうやって過ごしていくのか。そのことについて真剣に考える機会になったという。
「俺は、みんなみたいに『向こうに行ってもがんばってほしい』なんて言わないっスよ。がんばるのは当たり前なんで。ただ、いつの時代も、新日本にずっととどまる人間と、出て行く人間の2つのタイプがいる。そっち側とこっち側。本当に少しだけの会話でしたけど、『やっぱりおまえもこっち側なんだ』と感じたんですよね。なんだかんだで、ああ、こいつも“新日本”なんだなと思いました」
そのことに気づけただけで十分だった。