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33歳小結、なお伸び盛りの嘉風。
中年サラリーマン奮起のヒント。

posted2015/12/02 10:30

 
33歳小結、なお伸び盛りの嘉風。中年サラリーマン奮起のヒント。<Number Web> photograph by KYODO

九州場所2日目、大関稀勢の里を肩透かしで破った嘉風。この前日には横綱鶴竜を倒す金星をあげるなど勢いに乗った。

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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KYODO

「むしろ、20代の頃より今のほうが強いと思うんですよね」

 今、33歳の嘉風が元気だ。

 一年納めの九州場所は、大分県佐伯市出身の嘉風にとって“ご当地”。9月の秋場所では2横綱2大関を倒しての11勝を挙げ、9場所ぶりに小結に返り咲いて迎えた、ご当地場所となった。地元応援団の大きな声援に応え、鶴竜や稀勢の里を倒し、小結として初めて勝ち越しを決める。来年初場所では、新関脇に番付を上げるのを確実としたのだった。

 幕内平均引退年齢は、32歳前後と言われていた一昔前の相撲界。しかし、今年の名古屋場所を最後に引退した旭天鵬は40歳、若の里は39歳の高齢で、ともに23年の現役生活を送った。現在の最高齢幕内力士は、37歳の安美錦。今後の平均引退年齢、「力士の寿命」は引き伸びていくだろう。

 33歳の嘉風も、数字上では引退の二文字が頭をよぎってもおかしくないが、年齢に逆行するかのように、土俵狭しと動き回る姿から目が離せないほどの活躍ぶりを見せる。

 かつて、元横綱大乃国の芝田山親方が、29歳にして新十両昇進を果たした弟子の若乃島について、こう言っていたことがある。

「われわれの時代と違って、今は20代後半でも、まだまだ伸びて力が出てくるように見えるね」

「あなた、このままで悔しくないの?」

 嘉風も言う。

「30歳を超えると下降線だって人は言うけれど、きっと(力士は)みんな実感がないんじゃないですか?」

 力士を会社員に例えるならば、すでに定年も近い年齢の嘉風だ。しかし、そんな彼の数々の言葉に“疲れた中年サラリーマンが奮起できるヒント”が隠されているように思えてならない。

1.「今からでも遅くない、数字は気にしない」

 嘉風によると、好調の要因のひとつは、2年前から始めた筋力トレーニングにもあるという。

「僕が30歳になる前後、松鳳山や妙義龍に三役昇進の先を越され、自分は三役経験者に勝ててもいた。妻に、『あなた、このままで悔しくないの?』と言われたんですよ。20代後半まで、それまでの僕は何もしていなかった。でも、個人トレーナーに付いてトレーニングを始めたんです。『今ならまだ間に合うかもしれない』って」

 まさに、「これから先、今日のこの日の自分が一番若い」のだ。それまでの嘉風は、例えてみれば「出世欲のないサラリーマン」でしかなかった。

【次ページ】 「このまま現状維持ができればいい、と思っていた」

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