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服部文祥 「サバイバル登山家の非サバイバル親子登山」
posted2015/07/23 10:00
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Takashi Iga
我が子と登る時はまったく別の表情を纏う。瞬間ごとに成長する
娘との道中から、親子登山のあるべき姿が見えてくる。
本日発売の雑誌Number Do 『わたしのホーム・マウンテン』より、
サバイバル登山家として知られる服部文祥さんと娘の秋ちゃんの
登山の様子を、一部公開します。
朝の柔らかな日射しが、林道脇から延びる乾徳山の登山口をほんのりと照らしていた。
「ここから登るの?」という小さな問いかけに、服部文祥さんがやさしく応える。
「そう。父ちゃんがいつも鹿撃ちに来ているのは(少し違う方角を指差して)向こうだけどな。今日も、もしかしたら遭えるかもしれない。こういうところで獲った鹿を、秋は家で食べてるんだよ」
秋と書いて、しゅうと読む。秋ちゃんは小学5年生、3人きょうだいの末っ子だ。
駆けっこが得意と言うだけあって、登山道を歩く足取りは軽快そのもの。前夜、近くの温泉宿に素泊まりし、十分に休息したのが良かったのだろう。前泊を強く希望したのは服部さんだった。
「その方が確実に子どもの負担が軽くなるからね。この辺りだったら都内から2時間ちょいで日帰りも可能だけど、早起きして電車とバスを乗り換えて、それだけでちょっとガクッとなる。子どもが疲れちゃうと、親子登山はつまんないからさ」
「自分の登山をしちゃダメですよ」
親子登山と、服部さんの代名詞であるサバイバル登山とは似て非なるものらしい。後者が食料や燃料を現地調達しながら道なき道を歩くのに対して、親子で登山をする場合は子どもを楽しませることが最優先。「自分の登山をしちゃダメですよ」とその極意を語る。
「親子登山にチャレンジするのは良いけど、自分のチャレンジに子どもを連れていくのはやらない方が良い。うまくいかないとイライラしちゃうから。子どもをいかに快適に登らせて、面白いと思わせられるか。親はそれに挑戦すれば良いんだよ」
秋ちゃんに先頭を歩かせるのも、子どもの自主性を大切にしているからだろう。
「この木は倒れたの?」
「岩がいっぱいあるね」
歩きながら、秋ちゃんは素直な疑問を口にする。
「これは土どめだろうな」
「上に行ったらもっと大きな岩があるぞ」
服部さんも丁寧に質問に答えていく。
宿を出るときは汗ばむような陽気だったのに、山の空気は凜と冷たく、登るペースは思いのほか速い。1時間もしないうちに最初の休憩場である銀晶水にたどり着いた。