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ブラジルW杯直前、英雄たちの深層へ潜れ。
~『世界最高のサッカー選手論』~ 

text by

幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

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photograph byRyo Suzuki

posted2014/06/11 10:00

ブラジルW杯直前、英雄たちの深層へ潜れ。~『世界最高のサッカー選手論』~<Number Web> photograph by Ryo Suzuki

『英雄への挑戦状 世界最高のサッカー選手論』ヘスス・スアレス+小宮良之著 東邦出版 1500円+税

 劇薬のようなサッカー批評を読みたかったら、ヘスス・スアレスの本を手に取ればいい。意外な読後感を含めて、十二分に愉しめるはずだ。

 8歳までウルグアイで育った彼は、生粋の「フットボレーロ」。つまり、勝ち負けや、選手の有名性を問わず、人がサッカーボールを蹴った時に感じた衝動を素直に表現するジャーナリスト。自身のサッカー美学から外れる者をことごとく蹴散らし続けてきた、闘う男ともいえる。

純粋すぎるゆえの毒は、同胞にも向けられる。

 現代を代表する監督たちに関して綴った前作の『名将への挑戦状』。それから続く歯に衣着せぬサッカー人物批評シリーズは、いよいよ選手たちとの対決に突入した。インタビュー相手との喧嘩も上等。「譲歩」という言葉が、彼の辞書には存在しないらしいので、スアレスの愛するスペクタクルなサッカーと相反するものには容赦がない。かつて、カペッロやモウリーニョの戦術を完膚なきまで論破した彼は、C・ロナウドにすら遠慮なく牙をむく。アスリートとしては突出しているが、フットボール・インテリジェンスにおいては凡庸の域を出ない、と。気持ちよい程ばっさりである。

 彼はいう。「フットボールを裏切ってはならない」。美しいサッカーの信奉者である彼が、創造力という観点で15人の選手を切った本書。同胞のルイス・スアレスを、神も悪魔もおそれぬ真のウルグアイ人と評する一方、狂気のストライカーの背後にあった少年時代から続く愛の物語も披露する。なんだ、骨の髄までウルグアイ人であるこのジャーナリストも、純粋すぎるゆえの毒だったのか。

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