野球善哉BACK NUMBER
済美・安楽の熱投が問いかけたもの。
高校野球における「勝利」と「将来」。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2013/04/04 12:15
決勝戦6回裏が終わった時の安楽と上甲監督。監督から労いの言葉をかけられるも、流れる涙を抑えきれなかった安楽。
高知の投手ふたりの投球数は、安楽の半分以下だった。
4強に進出した高知。このチームは2年生の酒井祐弥と3年生の坂本優太の二枚を必ず登板させ、大会を戦い抜いた。
大会を通じての球数は酒井が296球だったのに対し、坂本は213球である。2人のそれぞれの球数は、安楽が準決勝までに投じた総数の半分以下だ。
酒井は「連投の疲れは少しあったのかもしれませんけど、僕自身に何か違いを感じたわけではありません。万全でした」と言っていたし、坂本も「まだまだ投げられました。もっと投げたいくらいの気持ちで不完全燃焼な所はある」と今大会を振り返っている。
2人の主軸投手を作って大会を戦うやり方は投手のコンディションを高く保つ戦術として有効だった。高知のベスト4進出がそれを証明していると思う。
「高校でつぶれたら、何のために野球を続けてきたかわからない」
独特な野球観で今大会に臨んでいたのは大和広陵(奈良)のエース・立田将太である。
立田は小学生時代に河合フレンズで全国制覇。中学時代はボーイズリーグの葛城JFKボーイズでも全国大会で優勝している。それほどの実績を残しながら、立田は甲子園常連校ではなく、地元の公立へ進んだ。その理由が独創的だ。
「私学だと連投させられるイメージが僕にはありました。高校時代からあまり連投をすると将来に響く。プロ野球選手でも、高校時代に甲子園でたくさん投げていた人は、その後、あまり活躍していない。高校でつぶれてしまったら、何のために野球を続けてきたかわからないので、地元の公立を選んだんです」
今大会では初戦である尚志館(鹿児島)戦で敗退。ストレートのMAXは149キロと大会前から騒がれたが、本番では143キロ止まり。寒かったこの冬の気候を考慮して、投げ込みをそれほどしてこなかったのが要因とのことであった。
立田には、高校野球の一般論とは異なり、「肩・肘は消耗品」と考えて身体を自ら守ろうという気持ちがある。今大会前、昨秋の愛媛大会で200球以上を投じた翌日に9回完投した安楽の話を振ると「あれを3年間続けたらやばいですよね。消耗しますし、怪我をしてもおかしくない」と同学年のライバルを気遣った。それが彼の野球観だった。