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T-岡田のホームランは客を呼べる!!
打率2割3分でも起用される理由。 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2010/05/10 12:10

T-岡田のホームランは客を呼べる!!打率2割3分でも起用される理由。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

藤井コーチの「4スタンス理論」で才能が一気に開花!

 彼が変化を見せたのは3年目のシーズンを終えた秋、入団初年度にもコーチとしてタッグを組んだ藤井康雄氏がコーチに復帰してからだ。

 それまでスカウトや編成にいた藤井氏はバッティングフォームを研究するために「4スタンス理論」を学び、チームとT-岡田に伝えたのだ。今はスカウトへ再転身している藤井氏が昨年、こんなことを話していた。

「(4スタンス理論というのは)要するに体幹を意識するということなんだけど、選手によって、それぞれ微妙に違うということになるんです。(フォームを)止めて打つのが合う人もいれば、動きながら打つ方が合う選手もいる。岡田の場合は、踵重心で、それも動きながら打つのが合っているんですよ。コーチの考えに当てはめるのではなくて、そういう理論のもとやっていきましょうよ、っていう感じで取り組んでいて、岡田自身も自分で考えられるようになったんじゃないかな」

理論を習得した後、自らフォームを研究するようになった。

 高校までのT-岡田はカチっと止まった状態で始動し、足を高くあげる一本足打法だった。それに比べれば現在は大きく変化し、彼のフォームを見ていると、高校時代とは別の方法で一定のリズムを保とうとしているのが分かる。相手投手が軸足に体重を乗せた時に、一端、身体を投手側に預けている。そして、それを軸足の方に引き、体重移動させている。

 ただ、理論の習得は確かに彼を成長させたが、藤井氏と取り組んでフォームについて自分自身で研究できるようになったことにこそ、意味があったのではないかと思う。

 高校時のフォームについてT-岡田に聞いたとき、「あの時の打ち方だと(プロだと)クイックもありますし、一軍の球は打てない」と話していた。今、藤井氏はチームを離れているが、彼のフォームはさらに成長の跡を見せている。それは、彼自身がフォームについて自分で考えられるようになった証だろう。

「打った瞬間にホームランって分かるやつがいいですね」

 5月9日現在のT-岡田は打率.233で8本塁打。決して褒められた数字ではないが、開幕戦に見たあの大ファールと5月5日のホームランをダブらせて考えると、どうしてもその先の成績を考えてしまう。

 それに、“打球”だけでこれほどまでにファンを魅了してしまう選手はそう多くいないのではないか、と。

 5月5日はこどもの日。多くの子供たちが彼の打球を見て、度肝を抜かれただろうと考えると、それだけでワクワクした。低迷するオリックスだが、T-岡田の空に突き抜けるような打球だけは、あいかわらず爽快である。

 高校時代、彼から聞いた話を思い出した。どんなホームランを打ちたいか、と聞いた時のこと。

「打った瞬間にホームランって分かるやつがいいですね。どこまでいったんやろって、歩いて打球を眺めるみたいな。そういうホームランを打ちたいです」

 打席に立つだけで期待感を持たせてくれるスラッガーの誕生。

 T-岡田の打球は、野球ファンをスタジアムへといざなう。

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