カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER

From:グラスゴー「日本人チャンピオンズリーガー」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2006/10/02 00:00

From:グラスゴー「日本人チャンピオンズリーガー」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

中村俊輔、稲本潤一のCL出場を目に焼き付けるべく

スコットランドからイングランドへ4時間弱の列車の旅。だが、稲本が感染症とは……。

そういえば日本人初CL出場となった彼の試合も見逃したっけ。

 10時10分、ペンザンセ行きのヴァージントレインは、定刻通りグラスゴーのセントラル・ステーションを発車した。乗換駅のウィガン北西駅まで、乗車時間は2時間半。20分間の待ち合わせ時間をおいた後、ノーザン鉄道でリバプール・ライムストリートを目指す。到着時間は13時49分。3時間40分の列車の旅がスタートした。

 火曜日はグラスゴー、水曜日はリバプール。チャンピオンズリーグ第2週の旅は、スコットランドとイングランドを股に掛けた英国編である。2人の日本人選手が、出場する予定だったので当然といえば当然の選択だ。シーズンは長い。初っ端から強豪の試合ばかり見ても間は持たない。芸がないというか、バランスに欠ける行為である。そもそも僕は日本人なのだから。

 とはいえだ。本日行われるリバプール戦を稲本は欠場することになった。聞けば、疲労性の感染症にかかったらしいとのこと。ほんとにもうまったく……。せっかく僕が……。だったら他の試合に行けば良かった……。思わず愚痴が口を突いて出てくる。つまり、僕はいま、少なからず空振り感を胸に抱きながら、ヴァージントレインの座席に腰を掛け、そしてこの原稿を書いている。

 稲本と僕との相性は、正直言ってよろしくない。話は5年前の9月11日にさかのぼる。アメリカで同時多発テロが起きた日の出来事だったので、記憶は鮮明だ。稲本が所属していたアーセナルは、'01〜'02シーズンのチャンピオンズリーグ開幕戦をホームでシャルケと戦うことになっていた。ガンバ大阪から移籍してきたばかりの稲本に、出場の機会はまずないだろうとの予想は当然で、したがってその時、僕はレアル・マドリーが開幕戦を行うローマの「オリンピコ」の現場にいた。日本人初のチャンピオンズリーガーは、翌日、ロッテルダムの「デカイプ」で拝むつもりでいた。フェイエノールトの小野には、出場の可能性が極めて高かった。彼こそが「日本人初」の大本命だった。

 マドリーがローマを1−2で寄り切った瞬間だった。稲本出場のニュースが記者席に座る僕の耳に飛び込んできたのは。残り時間15分を切ったところで、ベンゲルは稲本を、ピッチに送り込んだのである。「日本人初」を見逃した落胆は大きかった。誰もが小野だと踏んでいた裏を、まんまと突いたベンゲルを恨んだりもした。

 さらに翌日、ロッテルダムに向かえば、フェイエノールトの試合は、テロの影響で延期になった。僕がこの目で日本人を初めて見たのは、結局第3週のフェイエノールト対バイエルンまで持ち越されることになった。

 稲本がそのシーズン、チャンピオンズリーグに出場したのは、その1試合のみ。先日のジロンダン・ボルドー戦は、通算2試合目の出場ということになる。しかし2試合目は、'01〜'02シーズンに訪れていても不思議はなかった。1次リーグの最終戦、シャルケとのアウェー戦では、先発の可能性が濃厚だと伝えられていた。もちろん僕は、ゲルゼンキルヘンのアレーナに、今度こそはとばかり、意気込んで駆けつけた。実際、試合開始の1時間前、モニターテレビに映し出されたスタメンに、稲本の名前は存在していた。それが土壇場になってひっくり返ってしまったのだ。ベンゲルの野郎……と、僕はアーセナルの監督に憎まれ口の一つも叩きたい気分だった。

 とはいえ、ベンチスタートではあっても途中出場の可能性は濃厚だった。稲本はいまにもピッチに飛び出していきそうな勢いで、ウォーミングアップを重ねていた。

 そんな時だった。アーセナルに赤紙退場者が出たのは。これは日本人の新米選手に、出場機会を与える余裕が、ベンゲルから消えたことを意味した。嘆きたくなったのは、稲本の運のなさだけではないが、それはともかく、稲本が昨季まで、所属クラブでパッとしないサッカー人生を送ることになった最大の原因は、このシャルケとのアウェー戦にあるような気がする。退場になった選手は、当時ウクライナ代表だったルズニー。稲本もきっとこの試合のことは、いまなお記憶に鮮明であるはずだ。

 それにしても、スコットランドの天気は優れない。空はネズミ色。気温は、グラスゴーを出発する際には16度だった。日曜日にバルサ対バレンシア戦を見たバルセロナとは雲泥の差だ。いまだ半袖の世界のバルセロナに対し、こちらはパーカーなしではちょっとつらい。中村俊輔も、本当はスペインでプレイしたかったに違いない。気候もプレイも、こちらよりずっと良いと言いたいところだが、プレイのレベルに関しては、彼のレベルより高い可能性が強い。セルティックがスペインリーグに入れば、1部のお尻がせいぜいだ。

 スペインのレベルは相当に高い。バルサ、マドリーはもちろんだが、今季はそれを追う集団が、とりわけ面白そうに映る。

 チャンピオンズリーグ出場組のバレンシアもその一つ。中でも僕は、シルバ選手がお気に入りだ。アイマール風でありながらアイマールよりシャープ。けれんみがない。アイマールを放出した理由が、分かるような気がする。

 シルバに限らず、スペインには若手に好選手が数多くいる。コマはどの国より豊富だ。いっぽう日本は……とふと思う。小野、稲本がチャンピオンズリーグに出場した01~02年当時、将来はとても明るく映ったものだ。5年後には、10人ぐらいがチャンピオンズリーグの土を踏んでいるに違いないと、悲観的な予想で知られる僕でさえ、いま思えば、楽観的になっていた。稲本、小野、鈴木、中村。これに続く選手は、簡単には出てこない。出てきそうもない。大丈夫か、オシムジャパン。寒々しいスコットランドの空模様と、日本の現状に共通点があるとは思いたくないけれど。

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