イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER

伏線。 

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奥田秀樹

奥田秀樹Hideki Okuda

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photograph byNaoya Sanuki

posted2001/03/31 00:00

伏線。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 3月26日のホワイトソックス戦、7回裏1死二塁の場面で、イチローは初球いきなり三塁方向へのセーフティバントを試みた。彼自身、'95年以来という珍しいバントである。

 「一回練習しておきたかった。これからもやりたいことだし、感覚を掴みたかった」という。三塁手が手際よく捌きアウトになったが、「もっとラインの方を狙いたかったけど、だいたいはイメージどおり」と本人は納得している。

 ホームラン打者がずらりと並ぶメジャーでは通常、バントやヒットエンドラン、盗塁など足技には消極的だ。そんなことをしなくても、長打で歩いて生還できるからである。しかし今年のマリナーズにはホームラン打者がゼロで、ルー・ピネラ監督は「兵器庫に残っている武器、弾薬は全部使う」という言葉どおり、徹底してスピードを追求する。

 イチローに「同一リーグのライバルに、バントもあると見せたかったのか?」と問うと、本人は「それもあります」と肯定する。

 スピードはいま、イチローの代名詞である。この春、カクタスリーグの球界関係者に衝撃を与えたのは、平凡な遊ゴロでさえヒットにしてしまう健脚だった。バットでボールを捉え、わずか3秒8で一塁に行き着く。4秒を切れる選手はそうそういない。

 「イチローが打席に立つと、野手は緊張せざるをえない。少しでもお手玉すれば、セーフだからね。その緊張が彼らの動きをぎこちなくさせている」

 塁に出てからもまた、スピードで相手を掻き回す。3月末、モーゼス・ベースコーチの手ほどきで、連日、二盗、三盗スタートのタイミングを習得した。ピネラ監督が微笑む。

 「私の考えでは三盗は二盗よりも簡単。走者が得点圏にいると、ピッチャーは一塁の時のようにクイックは使えず、打者に専念する。当然、ボールが捕手に届くのは遅くなる。開幕からどんどん狙わせたい」というのである。

 歴史的に考察してみると、メジャーも最初は足技が攻撃の中心だった。それが'20年代のベーブルースの登場によって、ホームランの威力と魅力が万人にアピールし、野球を変えてしまった。

 これが再びシフトしたのは'60年代で、ドジャースのモーリー・ウイルスの足技、小技が生き、いわゆる「ドジャースの戦法」が近代野球のバイブルとなった。'90年代に、マグワイア、ソーサなど、パワーアップした強打者の豪快なスイングで再びホームラン時代が訪れたが、今年はストライクゾーンが広がり、その勢いは止まると予測される。そして逆にイチローのスピード野球がぴったりはまる可能性がある。

 開幕戦一番の見所は、相手チームがスピード封じにどんな守備シフトを敷いてくるかだ。それに対しイチローがどう裏をかき、ボールをはじき返して、ベースを陥れられるのか。ベンチコーチ対イチロー。スピードを巡るチェスマッチがいま、始まろうとしている。

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