アテネ五輪コラムBACK NUMBER

【ドリーム・チーム史上最大の挑戦】 苦しみながらも伏兵の一発で辛勝。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byTim De Waele/AFLO

posted2004/08/18 00:00

【ドリーム・チーム史上最大の挑戦】 苦しみながらも伏兵の一発で辛勝。<Number Web> photograph by Tim De Waele/AFLO

 緊張とプレッシャーが、若い岩隈を襲った。アテネ五輪野球の第2戦の先発を任された岩隈だったが、立ち上がりの不運が大きく歯車を狂わせた。オランダ先頭のミラルドの三塁への当たりを中村が後ろに逸らしていきなり走者を背負っての投球。続くキングセルに中前に叩かれ、無死一、三塁とされると内野ゴロの間に、あっさりと先制点を許してしまった。

 その裏、城島の左翼線への二塁打で同点としてもらったのもつかの間、2回には慎重にコーナーを狙いすぎて自ら落とし穴にはまってしまった。1死から8番・イセニアに左前安打され、続くレジットには2―2としながら結局四球を与えたのが痛かった。さらにミラルドには死球で満塁としてキングセルに左前タイムリーと内野ゴロで再び2点のリードを許してしまったのだ。

 ベンチは岩隈が4番・アドリアーノに四球を与えて再び満塁とされたところでたまらず石井にスイッチ。このピンチを石井が何とか凌いで、押し流されそうだったオランダの勢いをせき止めた。

 長身から投げ下ろす速球とスライダーを制球よく散らすオランダ先発の左腕・マークウエルに手こずる打線は2回、藤本の適時打で1点差とすると、疲れが見えて制球が乱れた5回にようやくつかまえた。

 突破口を開いたのはまたキャプテンの宮本だった。1死から動きの鈍くなっているマークウエルを見透かしたようにセーフティーバントを試みた主将は、「勝手に体が反応した」と一塁に頭から滑り込んで気迫の安打を奪った。高橋が投ゴロ、城島が四球を選んだ2死一、二塁。「気合が入っていたし、僕が絶対に何とかするつもりで打席に入った」という中村が左翼へ同点二塁打。さらに谷の四球で満塁として、続く小笠原も押し出し四球を選んで勝ち越し。ようやく日本が試合の主導権を握った。

 1点を勝ち越されたオランダはここで投手をジャンセンにスイッチしようとしたが、日本の猛抗議で試合は約25分に渡って中断した。

 実は試合前に交換したメンバー表に、オランダが先発野手と投手の合計10人の名前しか書き込まずに提出。リザーブ選手なしというミスを犯していたのだ。

「完全なルール違反。オランダからはプライドがないのかと言われたが、ルールはルール。本来なら没収試合になってもいいところ」という中畑ヘッドの猛抗議だったが、最終的には競技委員の裁定で五輪登録メンバーの出場を認めるということで決着するという一幕もあった。

 試合は4回に石井からマウンドを譲られた黒田が立ち上がりこそ2死満塁のピンチを招いたものの、5回以降は150km近いストレートとスライダー、フォークの緩急をうまく使ってオランダ打線をほんろう。5イニングを1安打に抑える好投を見せれば、打線も8回に伏兵の一発で勝負を決めた。

 藤本だった。「出来すぎです。アテネにはいってから次第に調子が上がってきていたんですけどね。上から叩く意識を持っているのがいいのかな」1死二塁から3番手・土連スピークの初球を打った打球は右翼フェンスを越える本塁打となった。2回のタイムリーとあわせて3打点はまぎれもなくこの日のヒーローだった。

「非常に厳しい試合だったけど、黒田が良く投げてくれ。こういう試合をキチッととっていくことが、大きいんだ」試合後の中畑ヘッドからは苦しみながら奪った1勝の重みが伝わってきた。

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