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中田浩二の新たな才能。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byAFLO

posted2006/08/18 00:00

中田浩二の新たな才能。<Number Web> photograph by AFLO

 見慣れぬ坊主頭が、DFラインの真ん中で、声を張り上げていた。

 「この選手をマークしろ!」

 バーゼルはスイスのチームとはいえ、オーストラリア代表のチッパーフィールドやスウェーデン代表のマイストロビッチがいるので、共通言語は英語だ。だから、中田浩二も英語でまわりの選手たちに指示を出す。

 「しゃべらないと、監督に怒られるんですよ。技術面は何も言われないんだけど、コミュニケーションを取れって。だから、どんどん声をかけるようにしてます」

 今季、中田浩二はDFラインのリーダーになっていた。

 中田がセンターバックにコンバートされたのには、いくつか理由がある。ベテランDFのムラト・ヤキンが引退し、スイス代表DFのスミルヤニッチがケガで離脱してしまった。バーゼルはセンターバックの層が極端に薄くなっていたのだ。

 開幕前の合宿から、中田はセンターバックに固定された。かつてバーゼルをCLのベスト16に導いた名将グロス監督は「コウジはDFとしての才能がある」と断言し、辛抱強く練習試合でも、UEFAカップの予選でも、センターバックとして使い続けたのである。

 中田も最初は慣れないポジションに戸惑ったが、試合をこなすうちに自信が芽生え始めた。

 「そりゃあ、最初は難しかったですよ。でも、DFのダニエル(マイストロビッチ)とコミュニケーションも取れるようになってきて、センターバックが自分のものになってきた。今はもう落ち着いてプレーできる」

 それにしても『日本人DFはヨーロッパで通用しない』という“通説”は、どこに行ってしまったのだろう。言葉の問題もあるし、フィジカルの差もあるし、日本人はDFとしてプレーできないと、今までは思われていた。

 だが、中田は持ち前の明るさで、英語でどんどん話しかけて、すぐにチームに馴染んだ。合宿中に坊主が流行したときも、バリカンを持って部屋に乱入してきた仲間のもとに、潔く頭を差し出した。

 「もうやるしかないって雰囲気になった(笑)。DFとして迫力が出た?まあ、周りからもそう言われるけど、関係ないですよ。でも、チームに溶け込めているってのは大きいです」

 フィジカルの差だって、頭を使えば埋めることができる。「ヘディングは、タイミング良く飛べば大丈夫」と、ハイボールも自信を持って対処している。

 オシム監督が選んだ日本代表のメンバーを見ると、なぜかセンターバックは坪井と闘莉王の2人しかいない。もしかしたら、中田浩二をセンターバックとして計算に入れているからでは?と深読みしたくなる。そんな問いに、中田は坊主頭をさわりながら、笑顔で答えた。

 「呼んでもらえるなら、どこのポジションでもやりたいし、(ユーティリティーなところが)自分の持ち味だと思うんで。まあ、スイスの情報がどれだけ日本に行ってるか、わからないけど(笑)。センターバックとしていいアピールができていると思うし、多少なりとも情報は伝わっていると思うので、バーゼルで試合に出続けることが大事。それが代表につながると思う」

 オーストリアのシュトルム・グラーツを強豪にしたオシム監督なら、スイスのバーゼルでDFとしてレギュラーになることが、どれだけ大変なことかを理解できるはずである。

 フィードがうまく、頭の切れるレフティーのセンターバックが、日本代表のDFラインに入ったら──。オシム・ジャパンは、また一歩前進するのではないだろうか。

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