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「ファシスト式敬礼」で大問題。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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posted2005/12/26 00:00

「ファシスト式敬礼」で大問題。<Number Web> photograph by AFLO

 サッカー観戦の楽しみの一つに、値千金の1発のあとに繰り広げられるゴールパフォーマンスがある。闘志を燃やして戦う男たちが喜びを表現する一瞬芸は、いつも観客の心に感動を呼び起こす。その場限りと思われがちなゴールパフォーマンスだが、実際は、世間に訴える大きな力を持っている。

 1982年のW杯スペイン大会で、イタリアを世界一に導いた立役者の一人であるMFタルデリのゴールパフォーマンスを、記憶に残る名シーンとしていまだに愛しているイタリア国民は少なくない。握りこぶしで、天を仰ぎながら絶叫するタルデリの勇姿は、2年前、TVコマーシャルにも起用されたほどである。イタリアの黄金時代が彼のパフォーマンスを通じて、いまなお語り継がれているのだ。

 そしていま、あるイタリア人選手のビッグパフォーマンスがきっかけで、国中が大騒動となっている。ラツィオの主将でFWパオロ・ディカニオが、12月11日のリボルノ戦、17日のユベントス戦で見せた片方の手を高くあげる「ファシスト式の敬礼」である。

 このムッソリーニ時代をほうふつとさせる敬礼のツケは高くついた。規律委員会は、法律で禁じられている「ファシズム主義」を象徴するジェスチャーとして、選手に対して1万ユーロ(約140万円)の罰金と1試合の出場停止、ラツィオにも10万ユーロの罰金を課した。

 ディカニオ本人は、「古代ローマ時代の敬礼であり、ファシズム主義を意味するものではない」と主張。そしてラツィオの幹部もこの厳しい処分に異議を申し立てたものの、規律委員会は国民感情を配慮したうえで、「ファシズムが不法であることを承知で行った」として、これをはねつけた。

 「すばらしいわがサポーターと喜びをわかちあう。すなわち、古代ローマ時代に根付く“一体化”を意味したパフォーマンスなのだ」

 「サポーターの前でこのジェスチャーをしないわけにはいかない。過ちとして罰せられることは腑に落ちない」と、生粋のローマ人であるディカニオは不満を募らせた。

 問題は、FIFA幹部の耳まで届き、ますます大きくなった。

 ブラッター会長は「イタリアは自力でこの局面を打開せねばならない」としたものの、サッカーのイメージのマイナスを懸念して、「スポーツとは全く関係ないメッセージをピッチに伝道する意味がわからない」と発言。人種差別同様、不法なジェスチャーの廃止に乗り出し、新規約を導入する方針を固めた。

 SPQR魂(※注)がきっかけとなり、築き上げた20年間のサッカーキャリアに泥を塗ることにもなりかねない今回の一件。ディカニオの敬礼パフォーマンスは、先の人種差別問題と相まって、また一つ、イタリアサッカー界に大きな不安を残してしまった。

※注=ラテン語で「元老院とローマの市民」の意。古代ローマの主権者のことで、ローマ帝国とその市民の栄光と誇りを表現する言葉。

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