プレミアリーグの時間BACK NUMBER
さようなら、スコールズ。
マンU、1999年の三冠組は今?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2011/06/09 10:30
クラブ史上19回のうち10回のプレミア優勝に貢献したスコールズ。168cm、70kgと小柄な体で、喘息を患っていたがその運動量、ゲームへの影響力は衰えるところを知らなかった
ベテランになってからもさらに進化したその攻撃力。
タイミングを逸したタックルは、華麗なボレーや強烈なミドルと同じぐらい有名だった。
イエローカード通算87枚は、プレミア史上4番目の多さ。7年前のマンU移籍でチームメイトとなったウェイン・ルーニーも、「一緒にプレーした選手の中で最高」とスコールズを持ち上げる一方で、「練習でも完全にボールを逃したタックルを仕掛けてくるから、その餌食にならないようにだけ気をつけていたよ」と笑っていた。
中盤での守備能力は最後まで開花しなかったが、攻撃的MFとしての成熟度は高まる一方だった。キャリア終盤の5年間ほどは、より深い位置を主戦場に、40m級のロングパスを当たり前のように駆使しながらビルドアップに絡んだ。常に味方の位置を正確に把握して、ピンポイントでパスを届けることから、チームメイトからは「カーナビ」とも呼ばれ、外部では、その名人級のパスワークで「ジンジャー・マスター」と称されるようになっていった。
また、加齢によって運動量は衰えても、シュート力は不変。2008年のCL準決勝バルセロナ戦第2レグでは、右足から飛距離約30mの決勝ロケット弾を撃ち込んで、最終的な優勝へとチームを導いている。
現役最高のパサー、シャビ・エルナンデスが敬意を表したCL決勝戦。
再びバルセロナと対戦した今年の決勝では、出場時間は終盤15分弱に限られ、勝者となって3つめのCL優勝メダルを手にすることもできなかったが、現役最高の「パス・マスター」は、引退を決意した「マスター」に最大級の賛辞を送った。90分間で148本ものパスを放ったシャビ・エルナンデスが、「過去20年間で最高のMFの鑑」と敬意を表し、スコールズとのユニフォーム交換を求めたのだ。
'04年の代表合宿で異例のメディア対応が実現した際、「人並みの半分程度は実力があった選手として記憶してもらえたら本望さ」と、無頓着な表情で謙虚に語ったスコールズ。それから7年が経ち、「ジンジャー・レジェンド」は、マンU関係者とサポーターはもちろん、相手チームの選手やファンからも惜しまれつつ、14歳から着続けた赤いユニフォームを脱いだ。