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「個」に徹することがチームの「利」。
松井大輔、復活へのステップ。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byToshio Ninomiya

posted2009/07/11 08:00

「個」に徹することがチームの「利」。松井大輔、復活へのステップ。<Number Web> photograph by Toshio Ninomiya

 さりげなく周囲に気を配るタイプ。

 松井大輔にはいつも、そんな印象を抱いてしまう。

 グルノーブル移籍の発表会見。報道陣でぎっしり埋まった会見場に、松井は予定の時間より約15分遅れで入ってきた。カメラのフラッシュを浴びながら、「遅れてしまいました。フランス時間を説明するなら、15分ぐらい(の遅刻)はよかったかな、と思いまして……」と切り出して報道陣の笑いを誘い、重たかった会見場の雰囲気をガラリと変えた。これも松井流の気配りのひとつなのだろう、と思えた。

W杯を見据えた松井は、出場機会に飢えていた。

 松井は出場機会に恵まれなかったサンテティエンヌに1年で別れを告げ、日本企業のインデックス社がオーナー企業になっているグルノーブルに移籍を決めた。ブンデスリーガのハノーファーなど欧州の数クラブからオファーが届いていたという松井が、新天地としてグルノーブルを選んだ理由は主に2つ。出場機会と、グルノーブルのサッカースタイルである。メシャ・バズダレビッチ監督はイビチャ・オシムの弟子の一人であり、“オシムサッカー”に通じる部分が少なくない。

「来年はW杯があるので、試合に出場していないと(メンバー入りは)難しい。出場機会を求めて、試合に出たいというのはある。グルノーブルの印象は(昨季)対戦したときにロングボールを多用するのかな、と思ったらつなぐサッカーをしていたので驚いた。しっかりつないだサッカーができるんじゃないかな、と思ったから」

 グルノーブルは昇格1年目の昨季13位で1部残留の目標を達成したものの、24得点はリーグ最下位。上位進出のためには攻撃陣の補強を急がねばならず、移籍を模索していた松井をファーストターゲットとして狙いを定めていたようだ。「日本人だからではなく、5年間、フランスでプレーした実績を持ち、現場もぜひ彼を獲得したいという考えだった」と祖母井秀隆ゼネラルディレクターが話すように、松井が攻撃の中心となることを期待している。まさに〝相思相愛〟の移籍が、松井をプラスの方向に導くことは間違いないだろう。少なくともサンテティエンヌよりは、仕事がしやすい環境にあるのだから。

 会見後の囲み取材。松井は語気を強めてこうも言っている。

「場所を変えて、初心に戻りたい。自分のサッカーを見つめ直すという意味でも」

 移籍を決めて晴れ晴れとした表情を見せる一方で、己のプレーに対する苦悩も伝わってきたのだった。

【次ページ】 カタール戦で垣間見えた、松井の煩悶。

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