カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER

From:重慶「アウェームード?」 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2008/02/22 00:00

From:重慶「アウェームード?」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

重慶での東アジア選手権を観戦した。

2004年に中国で開かれたアジアカップでは反日感情が吹き荒れ、

もの凄いムードのなかで行われたが、今回は果たして……。

 東アジア選手権の取材で重慶にやってきた。小雨が降ったり止んだり。とにかく天気が悪い。そのうえ寒い。北京同様、大気も汚染されている。朝起きて、ホテルの部屋のカーテンを開けると、世の中は真っ白。霧に覆われているかのような視界の悪さに、げんなりさせられる。「青い空、青い海、最高!」なんてメールを見ると、少々羨ましい気持ちになる。それは、ガンバ大阪が参加しているパンパシフィック大会を、ハワイで取材している知人編集者からのメッセージだが、こちら重慶で誇れるモノといえば、物価の安さと「火鍋」ぐらいしかない。

 これで肝心のサッカーが、抜群に面白ければ、なにも問題はないのだが、岡田ジャパンは第1戦(対北朝鮮戦)から失速気味だ。「世界を驚かすサッカーを」と岡田サンは言うが、この戦いぶりでは北朝鮮さえ驚かない。新監督就任4戦目で、ここまで期待感を抱かせないチームも珍しい。

 話題不足だからだろうか、メディアはしきりに現地の「反日感情」を煽っている。第1戦を日本でテレビ観戦した後、こちらにやってきた知人カメラマンは「そんなに凄いの、こっちの反日感情は?」と、訊ねてきたが、この程度なら普通だ。僕に言わせれば、たいしたことはないレベルだ。街を歩いていても、指を指されたり、嫌な目に遭ったためしはこれまでのところなし。危険度ゼロの平和な世界だといえる。

 申し訳ないけれど、この程度で大騒ぎする人は、率直に言って経験不足だ。世界は、もっと凄いブーイングで溢れかえっている。逆に言えば、それこそがサッカーの魅力なのだと僕は思う。ブーイングがあるから盛り上がる。敵対感情があるから盛り上がるのだ。

 しかし、日本人はブーイングに慣れていない。Jリーグの試合を見ていると、つくづくそう思う。外国に比べると明らかに弱い。及び腰だ。応援団員が口火を切らないと、ブーイングは起きなさそうなムードに包まれている。

 「人のことを悪く言ってはいけません」。日本人にはそうした教育が行き届いているからだろう。インターネットの書き込みには、その反動だろうか、目を覆うばかりの悪口が目立つのだが、それはさておき、だから逆に、相手から少しでも敵対心を持たれたり、ブーイングを浴びせかけられると吃驚仰天、パニックに陥る。面と向かって悪口を浴びせかけられた経験が少ない分、ショックも酷くなる。そんな気がする。

 サッカーの世界は、言ってみれば文句の言い合いだ。ブーイングの応酬こそが、スタンダードなのである。

 身内にだってそれは容赦なく向けられる。自国の代表チームが不甲斐ない戦いをすれば、ファンは即ブーイングに及ぶ。北朝鮮に1−1で引き分けても、なお温かい眼差しを送る姿勢と、中国人のちょっとしたブーイングに驚き、過剰に反応する姿とには、通底するメンタリティを見る思いがする。非サッカー的なメンタリティであることは言うまでもない。

 いま僕はこの原稿を、スタジアムのメディアセンターで書いている。第2戦、すなわち対中国戦は、あと1時間後に迫っている。というわけで、スタンドの記者席に場所を移すことにする。

 さぞ、物々しいムードに包まれているだろうという淡い思いは空振りに終わった。スタンドはいまのところガラガラ。1時間経っても満杯になることはないだろう。

 「エンドウ、ナカムラ、ナラサキ、ナカザワ、ウチダ……」。スタジアムの場内アナウンスは、日本の先発メンバーを告げているが、約8千人の観衆からブーイングが湧くことはない。アウェームードは皆無に等しい長閑さだ。

 選手団が入場してきた。観衆は少しずつ増えてきた。1万5千人程度だろうか。国歌の吹奏はまず日本から。しかし、予想されたブーイングはゼロ。拍子抜けとはこのことだ。中国国歌が終わるとさすがに、観衆は沸いたが、5万8千人収容のスタンドに漂う、閑散としたムードがむしろ際だつ感じさえする。

 ハーフタイム。

 観衆の入りは最終的には半分弱。2万5千人程度になった。それにしても、巨大都市・重慶市の人口を考えれば、微々たるものだ。不入りの原因は、今回のメンバーに海外組が含まれていないからなのか。あるいは「代表チームより、クラブチームまずありきの国」の片鱗を見せられたのか。

 この国には地域対抗が盛り上がる土壌がある。よって、中国国内リーグ(Cリーグ)の戦いは熱い。Jリーグの比ではない。喧嘩に近いノリがある。選手のプレイは、プロレス並みというと怒られそうだが、他に類を見ない荒っぽさであることは確かだ。スタンドはそれにつられて盛り上がる。あるいは、スタンドにつられて、選手のプレイは荒くなるのか。

 試合終了。1−0で、日本の勝利に終わった。感想は、日本に対してよりも、中国に向けたくなる。哀れみの感情を向けたくなる。もう少し試合運びが巧ければ、チームとして冷静に戦う術を知っていれば、日本に勝てるはずなのだが。試合の途中に、ここまでペースを急変させるチームも珍しい。

 一言でいえば自爆だ。北朝鮮の主審が、もう少し公平なジャッジをしていたら、退場者の一人や二人は出ていたに違いない。Cリーグの常識が、代表の国際試合に災いしているような気がする。

 もっとも、キチンとした経験を積んだ海外組が戻れば、そんなことはないのかもしれない。最強の中国代表と、反日感情の嵐に包まれる満員のスタンドで、正真正銘のアウェー戦が見てみたい。やっぱり、東アジア選手権は緩すぎる! 僕は少なからず、物足りなさを抱きながら、スタジアムを後にした。

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